赤の福袋

□夏の朝
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朝。
ウータイのユフィの家。
クーラーの効いた部屋でヴィンセントとユフィは布団に潜って眠っていた。
その中でヴィンセントの睫毛が僅かに動き、そうして開かれた瞼の下から宝石のような紅い瞳が現れる。

「・・・朝か」

軽く体を伸ばして腕の中のユフィを見る。
穏やかでどこか満足そうな寝顔。
昨夜あれだけ激しく求めあったので、その為の寝顔なのではと思うとなんだか嬉しい。

「・・・おはよう、ユフィ」

愛しさを込めて額に口づけを落とす。
それから頭を二回ほど優しく撫でてから布団を抜け出した。












愛を交わした後のシャワーは気持ちが良い。
想いの証の汗などが流れて行ってしまうのは名残惜しいがまた新たな想いを受け止める為にもシャワーで洗い流してしまう。
湯煙の中、昨夜のユフィをぼんやりと思い出す。
生意気で挑戦的で、挑発して仕掛けてくる癖にいざやり返されると必要以上に怯えて逃げようとする。
それでも黒の瞳には期待と求愛の色が浮かんでおり、それの虜になって夢中でユフィを蹂躙して求めた。
ワザと焦らして悩ましげな声を聞いたり、好きな箇所を重点的にせめて狂わせて、最後には―――

「と〜りゃ!」

突然背中に飛びついてきた存在に思考を遮断される。
振り向けば白いタオルを体に巻きつけたユフィが悪戯な笑みでこちらを見上げていた。

「よっ!」
「起きたか」
「うん、おはよ!ところで何ぼ〜っとしてたんだよ?もしかして昨日の事思い出してたのか〜?」
「・・・そうだと言ったら?」
「え・・・・・・えっち・・・」
「今から続きでもどうだ?」
「し、しないしない!今日は色々やりたい事とかあるんだから!」

ほら、こうしてやり返すとすぐに慌てる。
顔を真っ赤にして首を横に振る姿がなんとも可愛らしい。
軽く抱き寄せて不意打ちの口付けをしてやったらもっと真っ赤になった。

「〜〜〜〜!?な、何してんだよ!?」
「朝のキスとやらだ。お前がよく強請っているものだろう」
「いいい今は強請ってなかったじゃん!
「そうか、いらなかったか・・・」
「いやそういう意味じゃなくて!」
「クッ・・・・ククク・・・」
「も〜!!アタシをからかうな!!」

朝の甘いシャワーは気持ちが良かった。










風呂から出て軽い朝食を摂った後は卓袱台で枝豆の下準備に取り掛かった。
台所バサミを使って枝から切り離す作業だ。
パチパチと小気味よい乾いた音が耳に心地良い。

「やっぱ夏と言えば枝豆だよね〜」
「シドやバレットが見たら大喜びしそうだな」
「だね!今すぐビール持ってこーい!とか言ってさ」
「もうすぐ夏祭りだから呼んでやったらどうだ」
「そーだね、飲食スペースもあるしビールも出るから二人にとっては天国かもね」
「ティファたちも呼んでやろう」
「もっちろん!またみんなで屋台巡りしなきゃだし」
「今度は両手で持てる量に留めるようにな」
「えー?いいじゃん別にー。りんご飴とか焼きそばとかわたあめとか金魚とか射的の景品とか欲しいもーん」
「ならば食べ物は一つを食べきってからにしろ。持ってやる私の身にもなれ」
「ちぇー、分かったよ。じゃあ“善処する”よ」

ヴィンセントがよく使う『善処する』という言葉を真似てユフィは言う。
やれやれ、これは今年も同じ事になりそうだ。

「さってと!枝豆も全部切り終わった事だし、後は夕方に茹でるだけだね」
「今日の夕飯は?」
「この枝豆とソーメンと漬物だよ。ビールは・・・ヴィンセントはそんなに飲まないんだっけか」
「ああ、麦茶で問題ない」
「んじゃそれで。さ、下準備も終わった事だし、親父の蔵を漁りに行きますか!」
「・・・その言い方はやめろ」

パチンとウィンクしてみせるユフィに苦笑して応える。
今回ウータイに来たのは夏休みを有意義に過ごすというのの他にキサラギ家の蔵の探索というのもある。
勿論これはゴドーからの了承を得ているし、むしろ蔵を見るのがしんどいから代わりに見てきて、気に入った物があったら持ってっていいとまで言った。
ゴドーから頼まれているのはゴドーお気に入りのお酒。
他のお酒も持ってってもいいという事なのでヴィンセントはそれを求めてユフィと共に蔵に行くのであった。








場所は変わってキサラギ家の蔵。
蔵の中は風通しは良いもののあまり涼しいとは言えない温度だった。

「うへぇ、折角シャワー浴びたのに汗だらけになりそうだよ」
「さっさと目当ての物を見つけて引き上げるとしよう」

ゴドーに酒を収納している場所は教えてもらっているのですぐにそこに足を向けて探した。
壁際に並んだ三つの棚の真ん中の前、確かそこが床下収納だった筈。
観察眼の鋭いヴィンセントは真ん中の棚の前に来ると僅かな床と床の切れ目を発見し、そこに屈んだ。

「ここだな」

キィ、という木の軋む音と共に床下の扉が開く。
中からはありとあらゆる種類の酒とゴドーお気に入りの酒が何本か入っていた。

「悪くないな」

ニヤリと口角を上げてゴドーの酒と自分が飲む用の酒を取り出す。
今夜の晩酌はこれで決まりだ。
満足気に微笑んで床下を閉じると二階からユフィが何かを手にパタパタと忙しなく降りてきた。

「ヴィンセントヴィンセンとー!」
「どうした」
「見てよこれ!」

そう言ってユフィが腕の中から見せたものは緑や水色のおもちゃの水鉄砲だった。
それもちょっと性能が高そうな。

「水鉄砲?」
「そうそう!去年の夏祭りでゲットしてここに封印してたのすっかり忘れててさ〜!」
「それで?」
「今日これで遊ばない?」
「やりたい事があるんじゃなかったのか」
「予定変更!今日はこれで遊ぼ!覚悟しろよ〜?アタシこれ使うのは得意だかんね〜!」
「・・・フッ、おもちゃの銃も本物の扱いも同じだという事を教えてやろう」
「おろ〜?珍しく乗り気だね〜。んじゃ、さっさと親父に酒渡して遊ぶぞ!」



そんな訳で二人は早速酒を届けに行くとユフィの家に戻って戦いの準備を始めた・・・のだが。



「んま〜!やっぱ夏はスイカだね〜!」

帰り際に酒を持ってきてくれた礼としてゴドーに大きなスイカを渡されて先にそれを切って食べていた。
真っ赤で甘い香りを放つスイカはとても涼しげで夏を感じさせる。
今日買おうと思っていた物が思わぬ所で手に入って二人は大満足だった。

「夜にまた切って食べない?」
「ああ、そうだな」
「そんじゃ夜もスイカね!さ〜て、一服したら勝負だぞ〜!」





そんな、夏の朝。









続く
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