青の福袋

□カオスと過ごす休日
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「オイコラ、ヴィンセント出せ!今日は買い物に行く約束してたんだぞ!」
「たまには休ませてやったらどうだ。あまりこき使っては逃げられるぞ」
「うっさい!こき使う言うな!それに今日の買い物はヴィンセントの用事がメインなんだぞ!!」
「全てキャンセルだ」
「こんにゃろー!」

振り下ろされる拳をヴィンセントは軽々と受け止める。
いや、正確にはヴィンセントではない。
外見はヴィンセント本人であるものの、中身は彼が体内に宿しているカオスである。
極々稀にヴィンセントとカオスの人格が入れ替わる時がある。
条件や法則などはなく、試しにカオス本人に聞いてみたら「気紛れだ」などという答えが返ってきた。
だから今現在こうして出てきているのも『気紛れ』によるものだろう。
しかしそれはユフィにとってもヴィンセント本人にとっても迷惑以外の何物でもない。
折角今日はお互いに休日が一致して久々に出かけようと約束していたというのに。
先程からヴィンセントに代われとヴィンセントの体に跨って訴えているユフィだが、今日はもう駄目だろうなと実は半ば諦めていたりする。

「だが、そこまで言うのならば我がこの男の代わりに付き合ってやろうか?」
「いい、遠慮する。ヴィンセントがいいんだよ」
「冷たいな。この男の命を繋いだのは誰だと思っている」
「ディープグラウンドの事件が終わった後も寄生してるのはどこの誰だよ」
「それは我一人の責任ではない。なんだかよく分からんがこうなっている。それより―――」

カオスは起き上がるとテーブルの上に置かれている、ヴィンセントの飲みかけのコーヒーを指さして質問をした。

「これは何だ?先程から香ばしい匂いがするのだが」
「コーヒーだけど?」
「コーヒー?美味いのか?」
「それは人それぞれだけど・・・長いことヴィンセントの中にいたのに味知らないの?」
「この男と五感を完全に共有している訳ではない」
「ふ〜ん。まぁ飲んでみれば?:
「ああ」

カオスはコーヒーカップを手に持って口元に持っていき、香りを少しだけ楽しんでからカップを傾けた。
コーヒーの静かで落ち着きのある深い香りが鼻腔を満たして穏やかな気持ちにしてくれるが味の方はそうもいかないようで。
本当にほんの少しだけ口に含むとカオスは眉根を寄せてカップを口から離した。

「・・・・・・不味いな」
「苦い、じゃなくて?」
「苦くて不味い」
「ヴィンセントはそれが美味しいって言ってたけど」
「理解出来兼ねるな。あの男はこんな理解不能の飲み物を好むのか?」
「ヴィンセントだけじゃなくて他にもブラックコーヒー好きな人間沢山いるぞ」
「狂気の世界だな」
「アンタ、それ全世界のブラックコーヒー好きを敵に回す発言だぞ」
「これはこういう飲み方するものなのか?」
「いや、ミルクとか砂糖とか入れて甘くして飲む事とか出来るけど?」
「ならやってくれ」
「ちょっと待ってろよ〜」

ユフィは立ち上がると冷蔵庫から牛乳と砂糖を持参してカオスの隣に座った。
そしていつも自分が飲む時と同じ要領でそれら二つをカップに注いでスプーンで混ぜ始める。
すると瞬く間にブラックコーヒーは真っ黒から明るい茶色となり、甘い香りを放つようになった。
しかしこれではもはやコーヒーというよりカフェオレなのだがカオスは不満はない様子。
むしろ興味あり気にカフェオレを覗いていた。

「匂いが変わったな」
「まーね。こんだけ牛乳と砂糖入れてれば変わるでしょ。ほい、ユフィちゃん特製のコーヒーだぞ!」

えっへん!と胸を張ってユフィが出してきた物をカオスはやや警戒しながら手に取る。
最初に口にしたコーヒーの印象が悪かった為、ユフィが作ったこのコーヒーも不味いのではと警戒しているのだ。
しかし上品な香りから柔らかい香りを放つようになったお陰か、カオスは思い切ってそのコーヒーを口にする決断を下す事が出来た。

「・・・」

苦いという言葉以外の感想が浮かばなかった最初のコーヒーと違ってユフィが作ったコーヒーは甘いという言葉が浮かんでくる。
同時に美味しいとも感じた。

「どう?」
「美味い」
「マジ?アンタはこっちの方が飲める感じ?」
「そうだな」
「ふ〜ん、変なの〜。ヴィンセントはブラックが好きなのにカオスは甘い方が好きなんてさ」
「人格が異なれば好みも変わるという事だ」
「あ、その言い方ヴィンセントっぽい」
「そうなのか?」
「うん。ヴィンセント、そんな感じの言い方するよ。てかさ、なんかもっと試していい?」
「何をだ」
「例えばこれ!」

バンッ!とユフィは雑誌を広げて水着のページを見せる。

「ヴィンセントはこのパレオの水着が好みなんだけどカオスはどの水着が好き?」
「水着とは何だ?」
「海とかプールっていうおっきな水の溜り場に入る時に着る服だよ」
「人間は皆いちいち着替えて入るのか?面倒な生き物だな」
「アクセサリーと一緒で自分を飾る為のもんだよ。それよりホラ、アンタはどれがいい?」
「ふむ・・・これだな」

そう言ってカオスはミニスカ水着を指さす。
可愛らしいながらも色気のあるもので、ユフィの好みのタイプの水着でもあったりする。

「へ〜、アンタはそっちがいいんだ?ヴィンセントと正反対だねぇ。じゃあこっちのサンダルは?どれがアタシに似合うと思う?」
「この黒だな」
「あ、ヴィンセントと全然違う!ヴィンセントはこっちの白とか赤って言ってた」
「これだけ好みが反対なのによくもまぁこの男の体に宿れたものだ」
「それすっごいアタシが言いたい。アンタとヴィンセント、かなり話し合わなさそう。喧嘩して星壊すなよ」
「保障は出来んな」
「しろ。仲良くしないと行動範囲広げてやんないからな〜」
「・・・一つだけこの男と共通した好みのものがあるな」
「え?何?」

尋ねた瞬間、肩を掴まれて押された。
「うわっ!?」というユフィの声なんかお構いなしにそのまま押し倒されて背中と床がこんにちは。
背中に軽い痛みを感じて抗議をしてやろうと起き上がろうとするものの、押さえつけられて叶わない。
嫌な予感がして見上げれば―――愉快そうな表情でカオスがユフィを見下ろしていた。
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