短編集 -3-dimensional-
□Truth or Doubt
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「どうしたの?」
「あのね……くまちゃん…けがしちゃったの……かんごさんにいったらね、あたらしいの…かおうねって……はな……くまちゃんと、おわかれ…やだ…」
泣きそうな表情をした花ちゃんが持っているクマの人形を見ると腕と肩の継ぎ目が裂けて千切れかかっていた。
友梨奈はクマの人形を受け取り直せるものなのか様々な角度から見ていると、名は小さく息を吐いてから病室を出ていった。
「ゆりなおねえちゃん…」
「う、うーん……」
正直、綿が飛び出している状態で修復出来るほどの知識や技術もないのだが5歳児の期待の目線が突き刺さっている状況に簡単には投げ出せなかった。
「…失礼」
友梨奈が思考を巡らせていると不意に病室のドアが開いて名が入ってきた。
「名字先生?」
名の姿は何故か手術着のフル装備。友梨奈は首を傾げながら、その姿を眺めているとクマの人形を友梨奈の布団の上に置いてソーイングセットを手渡される。
「patientの名前はクマ、年齢は?花看護師」
「え…1さい」
「なるほど、左肩裂傷による出綿の状態は酷くない、これからそのままナートを行う。花看護師は照明を傷口に。平手看護師、丸針」
本格的な手術現場の雰囲気さながらに名は2人に指示を出して緊張感が広がっていく。
専門用語を言われても、友梨奈には意味が分からず手渡されたソーイングセットを開けて中身を見ると丸、鈍、逆三角、平型と丁寧に書かれていた。
「あ…はい、先生」
緊張した面持ちで『手術』を見守っている花ちゃんに少し笑みを浮かべながら丸と書かれたスペースに入っている針を手渡した。
丁寧かつ繊細な手捌きで縫い終えると名は術後のように2人に一礼して手術完了を告げる。
「せんせい、ありがとう!」
「私は何も。礼は平手さんに言いなさい」
「うん!ゆりなおねえちゃんもありがとう!せんせいのいってること、わかるのすごいね!」
名はクマを花ちゃんに手渡し、淡々と道具を片付けていく。
冷たい印象があるが、友梨奈は名が強い志を持って医者をやっているのだと改めて実感する。
友梨奈が入院した際も、スケジュールを気にしたスタッフが名に尋ねる事があると「貴方が生死を伴う病気で入院しても、次の日に働けるように段取りしましょう」と言い切って黙らせ、芸能人が居ると看護師がチラチラと見に来た際は欅坂を知らないような年代の看護師に担当を切り替えてくれていた。
そんな事を思い出しながら、友梨奈は小さく微笑んで花ちゃんを見送ると部屋に2人きりになる。