欅の宿り木
□欅の宿り木 3話
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「三浦大知さんの専属パフォーマーやったんと?通りで凄かダンスすると思うた!」
「え?いや…」
興奮した様子で独特のイントネーションで早口で話し掛けられ、聞き取り辛く眉に皺を寄せながら名は何とか返答する。
「すいません、興奮しちゃって…私、長濱ねるって言います!」
名の様子をみた彼女は口調が変わって、自己紹介と共に手が差し出される。
「俺は名字 名って、なに!?」
「私にもダンス教えてもらえないですか?」
握手かと思って手を握ると、意外に力が強く端の方まで引っ張られていく。
「えっと、ここん部分が不安があるけん、アドバイス貰えたらなぁって」
名の前で少し踊ってみせるとステップにバラつきがある様子だった。
「足元の動きが雑いから、動作がスムーズにいってないと思う。この上半身の動きなら…あー…えー…ごめんなさい、長濱さんの腕借りますね」
アドバイスをしたいが指導した事などないので言葉が出ず、長濱の背中に寄り添って一つ一つの動きを説明する。
「っ……」
「で、長濱さんの足を前に出すとスムーズだと…どうかしました?」
「ねるって呼んでくれませんか?長濱って呼ばれ慣れてなくて、気になっちゃって」
「…えー…あー……はぁ…そうなんですか?…じゃあ、俺の方が歳下なんで、ねるさんでいきますね?」
「歳下?」
体が密着して恥ずかしそうにしている、ねるの事を気にしていない様子で名は淡々と話し続けている内に衝撃の事実が判明して目を見開く。
「ねるさんのグループの最年少と同い年なんで、敬語もいらないですよ?」
「てちと同い年!?そげん風に全く見えんよ!?身長も高かし!」
落ち着きぶりといい、表現力といい、この世代はどうなっているのだと驚いて体を反転させた、ねるは名の肩に両手を置く。
「ねるさんは気を抜くと方言出ちゃうんですね」
「あ……また…恥ずかしい……気を付けてはいるんだけどね…」
「自分が生まれた土地の言葉を話して恥ずかしい事なんて何一つ無いと思いますよ」
しまったという顔をした自分に気を使うわけでもなく真顔で言い切る名に、ねるは頬が紅潮するのを感じて距離を取った。
「もう時間やけん、行かんと…また教えてくれる?」
「偶然出会う機会があれば」
「…うん、名君…またね」
連絡先を聞かれたら教えようと思っていたが、名からは冷静な対応が返ってきたので、ねるはアイドルとして更に磨きを掛けて名に見てもらおうと心に誓った。