欅の宿り木
□欅の宿り木 5話 前編
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二人でスーパーに行き、名は料理のレシピを頭で思い浮かべながら食材を選んで行く。友梨奈は買い物カゴを乗せたカートを押しながらついて来ている。
「訳わかんない菓子入れんなよ?」
「きらす揚げ美味しいじゃん」
「あれ味ねーし、硬いんだよ」
お菓子コーナーに目がいっている友梨奈を制すと、唇を少し尖らせて抗議してくるが適当にあしらって買い物を済ませる。
「きらす揚げ買いたかったな」
「帰りにケーキ屋寄るぞ」
「やったー」
スーパーから出ると強風が吹いて、肌を刺すような寒さに襲われるので友梨奈は名の背中に隠れる。
「あー寒い寒い!」
「だから、家で待ってろって言ったろ」
菓子への執着がなくなったと思えば寒い事に対しての文句が始まるので名は呆れ顔で友梨奈を見る。
「家に居てもつまんないし…あ!!私とは新婚ごっこやろうよ」
「あん?」
「ねるとは恋人ごっこしたんだから、いいでしょ?」
急に始まる全力演技遊び。新婚という霞のようにボンヤリとしたお題に名は訝しげな様子になるが友梨奈は演技モードに入っているのか名の腕に抱きつく。
「…」
「…」
「あなた…愛してる」
「俺もだよ…友梨奈」
「嬉しい……ずっと一緒よ?」
「ああ……来世でも君を探し出す…」
二人は静かに並んで歩き、愛の言葉を囁きあって再び沈黙しながら歩く。
「君の……」
「……名は……」
「…ぼくら〜たーいむふらいや〜」
「あははっ!急に歌わないでよ!」
よく分からない方向に着地したので、名は歌い始め、友梨奈も大笑いしているので名も笑い出す。
「私、名と入れ替わるの嫌だし!」
「俺だって、お前の噛んだ米で作った酒なんて飲みたくないからな」
その後、ケーキ屋に笑いながら入り、二人の会話で不審な目で見られながらも買い物をして出た。
ケーキを買っている間、食材の入った袋は友梨奈が両手に持っていた為、そのまま帰路を歩いていると不意にコートが背中に掛かる。
「え?」
「このコート動き辛いから預かってくれ」
寒さを感じていた理由は近所だからと友梨奈はコートを着る事を面倒くさがって薄着で来ていた事もあり、名は友梨奈の荷物も預かる。
「あったか〜!やば〜!」
「そりゃ、良かった」
満足げな友梨奈に名は小さく笑みを浮かべて道路側を歩き出す。自然なエスコートに友梨奈は顔がにやけそうだったのでコートで顔を隠すと石鹸の香りが鼻をくすぐった。
「あ、名の匂いがする…」
「変態かっ」
「………ありがと」
「…っ…あー…変態は褒め言葉で使ってないから」
一瞬だけ周りのカップル達の雰囲気に飲み込まれそうになったが、名は流れを強引に戻す。
「変態にお礼に言ってないし!」
いつものやりとりに戻って友梨奈は言葉の応酬をしながらも、名の腕に抱きついてクリスマス一色に飾り付けられた街並みを楽しみながら歩いていた。
続く。