欅の宿り木
□欅の宿り木 番外 5
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「…」
可もなく不可もなく。といった所だが友梨奈の歌声と自分の鼓動の音が聞こえ、生きている実感が湧く。
このまま、この空間で眠ってしまえたら、どれほど休日を楽しめるのだろうかと水面に手を伸ばして片腕を出す。
「名!!!!!!」
誰も居ないはずの空間に手を伸ばしたつもりだったが、その手を急に掴まれたので焦って少し水を飲みながら顔を出した。
「ごほっ………ゆり…な?」
「バカ!!!何やってるの!!!?」
服を着ているままで湯船に入った友梨奈は名を強く抱きしめ、怒っている様子だったが震えている事に気付いた名はゆっくりと抱きしめ返す。
「どう…した?」
「どうしたじゃない……こんな真っ赤なお風呂で沈んでたら…怖いよ……」
「あぁ…悪い」
普段なら茶化す所だが、友梨奈の怯え方が尋常ではないので落ち着くまで後ろ髪を撫で続けた。
「名は……居なくならないでよ…」
「……あぁ………お前は……すぐに心に入れてしまうから……辛いな…」
ねるの卒業発表、星野の事、名自身が刺された時の事が混ざってフラッシュバックしているのだと感じた名は力強く抱き締める。
「あ……」
「大丈夫、死なないから。お前が側に居てくれるんだろ?」
「…うん……」
友梨奈の腕の力が弱まり、我に返ってきた事を感じると名は本題を告げる。
「…とりあえず、話すにしても風呂から出てからにしないか?」
状況的には裸の男性と着衣しているとはいえアイドルが湯船に浸かっているという事になっているので、名は場を収めようと友梨奈に提案する。