欅の宿り木

□欅の宿り木
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彼女がテレビに出る事が増えたと母親や学校の友人達から報告があり、名自身もCMなどで見る機会があったので再び遠い世界の人間になったと思いながら通学路を歩いて帰宅していると携帯の着信音が鳴る。



「どうした?」



「今日、19時から生放送があるから絶対観て」



「テレビ観ろって…珍しいな…何かあるのか?」



「いいから!じゃあ切るね!」



自分の要件だけ伝えると切られたので、名は仕方なく彼女の言う通りの時間にはテレビの前に居てソファーに腰掛けた。






特に変わった事はなく、曲のパフォーマンスが終わるとフリートークへ移るので名は少し眠気が出て欠伸をこぼす。



「恋愛禁止でも片思いはOKなら、好きな人とか居るの?」



MCが友梨奈達に質問して、前に電話で話していた人はキャプテンらしく、自分が答えた後にメンバーに話題を振っていく。



「うーん、最近公開された映画の〜」



外国の俳優や、歳が20以上も離れている俳優の名前などを挙げていくメンバーの流れでセンターの友梨奈には最後に順番が回ってくる。



「…えっと…私は…好きな人というか…」



しばらく俯いてから、決意を込めた力強い瞳をカメラに向けて口を開く。






「今、この番組を見てくれている貴方…貴方に感謝しています。だから、これからも全力で頑張るので側にいて応援してください」




友梨奈の本気の想いを乗せた言葉に名の胸は貫かれて目線を逸らすことが出来なかった。



周囲からはキャラじゃないと茶化されて、一度はやってみたかったなどと言いながら恥ずかしそうに両手で顔を隠して和やかな空気に合わせていく。




「……ったく……全力で頑張って…まーた無理しなきゃ良いけどな」



全国放送の電波に乗せて届いた想いを受け止めた名は小さく呟きながら笑みをこぼし『当たり前だろ』と彼女へメールを打った。





fin








after…

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