欅の宿り木

□欅の宿り木 8話
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「名、こっち」



「あぁ」



水族館に入って、友梨奈が不安だったのは名が興味ないのでは?という事だった。



実際、名は静かに自分の後ろを歩いているだけで表情からは楽しんでいるのか読み取れなかった。




「友梨奈、あれは…」



「ん?」



名が指差したのはカワウソとの握手が出来るというコーナーであり、茶化してくる気かと少し覚悟しながら近づいていく。



「あ…あぁ…」



キュウキュウと鳴きながら、名の指に握手?するカワウソに友梨奈は自分にも手を出すパターンかと目を細める。



「か…かわいい…やばい…かわいい」



肩を震わせながら、友梨奈の方を見た名の表情は目がキラキラと輝いて、頬は綻びっぱなしだった。



「うん、確かに…可愛いすぎ…やばい…鼻血出そう」




先程のモデルの様な表情とは180度違うので、友梨奈はこの世で最高に可愛い生物を目の前にしてしまったと思わず口を抑える。



「あーもう、カワウソ飼いたい」



「影響されすぎ」



小1時間ほどカワウソコーナーで楽しんだ後から帰り道にも名は同様の言葉を何度も繰り返しており、友梨奈は連れてきてよかったと実感しながら人通りの少ない並木道を歩く。



「名…ありがとね」




「ん〜?なにが?」




「ずっと、側に居てくれて」



夕陽が雲で隠れていき、夕立が来そうな空色の下で友梨奈は名に感謝を告げた。



「当たり前だろ」



「当たり前、なんだ」




2人の当たり前。




そんな関係を崩してしまうかも知れないが、自分の心に嘘をつき続ける事が出来なくなった、友梨奈は覚悟を決めた瞳で歩いており名の前に立つ。




「あのね、私…」




友梨奈は名の顔を真っ直ぐに見て、心の中の言葉を紡ごうとした瞬間に名に肩を強く押されてバランスを崩して地面に両膝を着いた。




「いっ…」



「てち、久しぶりだね」


困惑気味に名を見上げた瞬間、ナイフを持った男が名の肩越しにニヤついているのが見え、当たり前の日常は一瞬で崩れていった。















続く。


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