Super Smash Brothers -IF-

□第一章:憤怒の訪れ
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第一話『出会い』


ーー憤怒はこの世界の終焉を嘆く。


ある青年は神だった。軍神の子であり、大罪邪神『憤怒』でもあった。

そんな青年はとある世界のとある館に召喚される。館での生活は、最初のうちは慣れないことが多く、人々とも打ち解けられず、冷淡な態度を向けていた、が、人々の暖かさ、賑やかさに心動され、次第に一部と親密になっていった。

十四日目の夜だった。館中に警報が響き渡る。ーー敵襲だった。
当時の青年はそれでもまだ未熟だった。周りで笑っていた人々の命が次々と奪われていく様を青年は間近にした。

青年は自身を殺すことにより時を巻き戻した。巻き戻し、結末を覆そうと試みた。

ーー遅すぎる。

もっと昔へ。

ーーもっと時間が必要だ。

もっともっと昔へ。

青年は何度もその人生を繰り返した。繰り返す度に忘れられるのが、辛かった。

五十三回目の生だった。青年は森から館への道中、フードを深く被った謎の人物に告げられた。

「この世界は幸せな終焉を迎える」

だから己を信じろ、と。

謎の人物の顔は伺えず、その人物はそう告げればたちまち去っていった。
にわかには信じがたい話ではあったが、青年にはもう信じるしか道はなかった。ーーもはや執着のような、呪いのようなものに近かった。

とある青年は抗い続ける。何百、何千、何万、それ以上死ぬ事となっても。己を何度犠牲にしてでも。
その言葉が存在した限り、抗い続ける。

ーー全て、世界に、捧げよう。


” ある青年は世界に幸福を願った”


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ”ー……なんでこんな時期にきのこ狩りなんてするわけぇ?」

金髪碧眼のエルフのような耳を持つハイリア人の青年ーーリンクは気怠げに文句を垂れた。その額からほろりと汗が滴り落ちる。

「だよねぇ〜……僕なんか今度のイベントに出す同人誌の原稿まだ描き終わってないんだよぉ、今頃もうペン入れ終わってるかもしれないのに……」

「お前はむしろ働け、つうかおまえの同人誌なんかどうでもええわ」

銀髪金眼の青年、ルフレの発言にリンクはツッコむ。無論、リンクはルフレの日頃からの重度なオタク発言や行動にツッコミをするのは日常茶飯事だ。

「男の私。たまにはまともに働けヒモ」

そう鋭く言ったのはルフレと同一人物である、ロングヘアーをツインテールにしてまとめた女性の方のルフレだった。分かりづらいのでルフ子と呼称する。

「あとあの原稿、少々エロさが足りてないわ。改良すべきね」

「ストレートに言ったな、ていうか同人誌の評価も言うんかい」

「えーもうペン入れ始めちゃったし!なんで先に言ってくれなかったん!」

ルフ子が淡々と同人誌の評価をする。隣で嘆くルフレに、リンクは呆れの表情を浮かべた。

「まあまあ君たち、後もうちょっとで着くから、落ち着いて」

赤い帽子を被った茶髪青眼、大きなまんまるの鼻とヒゲがトレードマークの彼、マリオがそう告げる。彼はいわばこのグループのまとめ役のようなものだ。

彼らは今、迷いの森へきのこ狩りをしに向かっている。


ーーー
ーー



時は遡り数時間前。

スマブラ館に集いしファイター達は、マスターに会議部屋へと招かれた。

スマブラ館というのは本世界、『ゲームワールド』にある『スマッシュブラザーズ館』のことであり、強力なファイター達が世界の各所から集められ、大乱闘という名の競技をなす場所であり、ファイター達が集い、暮らす場所でもあった。時により本世界の一部に異常が生じた場合、スマブラ館の一員が軍となって出撃することもある、言わば一連の組織のようなものだ。

希薄な薄く長い紫髪が右目を隠すようにかかり、覗かれる青紫色の左目は集うファイター達を右から左へと見渡す。マスターハンドは全員が入ってきた事を確認するとゆっくりと口を開き、こう告げた。

「それぞれグループに分かれて、別々の森できのこ狩りをしましょう!」

あまりに唐突だった。その場にいた誰もが唖然とし、その場には静寂が訪れる。毎度ながらにマスターハンドは唐突にイベントを開催するものだからその度にみんながこの反応をする。
静寂は一人の声によって打ち砕かれた。

「ーーはぁ?」

そうこぼしたのはリンク。心底呆れたような顔をしていた。それにつれみんなもそれぞれ声をこぼす。

「え、急」

「マジ?」

「お腹空いた」

そしてそれぞれの囁きは一人の声により静まる。

「ーー主命とあらば、構いませんが……何故いきなり…?」

そう言ったのはマリオ。実に大人らしい態度だった。マスターハンドは皆それぞれの態度に、何か可笑しかったのかふふっと声が出る。そして張り切った声でこう言った。

「今夜はきのこ料理を沢山作りますよ!それでは各自、ボードに書かれた通りのグループに分かれて各所へ向かうこと」

ーー解散。ようはただの気分とノリだった。


ーーー
ーー



とまあこんな事があり今現在に至る。こんな唐突に言われても尚、いうことを聞くのはもはや良心なのか、慣れなのかは分からない。

「散々だな〜、やめたいな〜」

リンクが歌う感じにそう呟く。そこにリンクの影ーーダークリンクがによによしながら歩み寄る。

「オリジナルさんもか弱いこったぁなぁ」

「るっせぇ、嫌がらせなら他所でやってくれ」

からかうダークリンクにリンクは怪訝な顔を浮かべた。元々ダークリンクとリンクは不仲な感じで、お互いの事を毛嫌っていた。最も、ダークリンクのちょっかいにリンクがうんざりしている感じなのでほぼダークリンクが原因なのだが。

その後も、リンク達は歩き続けた。歩きの勢いやペースも落ちていき、余裕が無くなってきたのか段々と話し声が静まっていく。
一同がザクザクと草を踏みつけ、黙々と先へと進んでいくと、ようやく森の始まりが見えてきた。

(やっと着きそうだ)

リンクは内心そう思い、はぁっと溜息を漏らす。もらった懐中時計はもう一時をさしていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「じゃあ、各自森の中を散策して、きのこを見つけ次第このバケットに入れるように」

そう言ってマリオは各自一つずつバケットを配る。バケットは人の体の半分くらいの大きさだった。

(大きくねえ?)

リンクは嫌そうな顔をしてまたも大きな溜息をつく。

「あ、バケット半分以上に満たなかったらそれなりの罰ゲームがあるらしいから、その気で頑張ってね」

「!?」

その場にいた全員が驚愕する。マリオはそれを見て苦笑いを浮かべ、「大変だけどグッドラック」と言い、一方向へと歩いていった。
他の人々は呆れるものもいれば、張り切っているものもいた。リンクもその呆れる人々の一部だ。

「まあまあリンク、一緒に頑張ろ」

そう優しく声をかけたのは青髪碧眼の青年、マルス・ローウェルだ。マルスはやる気のないリンクを元気がないと勘違いしたのか元気付けるように微笑みかける。

「お前はほんっと良心の塊みたいなやつだよな」

「え?」

「いやなんでも……」

マルスは不思議そうな顔をしている。リンクはそれを見ながら何度目かの溜息を大げさに吐いた。

「さーて、行くとするかねえ〜」

「あ、リンク行く気になったんだね。じゃあさ、どっちが沢山取れるか、競争しようよ」

「お、負けねえぞ〜。なんてったって俺は迷いの森とは縁が深いからな」

「なに〜、じゃあ早めに取りに行かなくちゃね!」

早いもんがちといった感じにマルスは飛び出していった。そしてリンクもまた、その地を去った。


ーーー
ーー



「広いもんだな〜……つうかマジで広い、やばい」

今現在のきのこの数、一個。バケットの中身はとても虚しいものだった。
リンクはあたり一面に広がる木々を見渡しながら呆気にとられていた。

「こんなとこにきのこなんてほんとにあるのか…?」

集う木々が集団となってリンクを見下し、迷え、迷えと笑っているようにも見える。
リンクはそんな木々達に悔しみを感じながらも前へと進んでいく。

ざっ、ざっ、

ーーきのこはどこだ。

辺り一面、特に木々の足元に注意を払いながら進む。

ざっ、ざっ、

額から流れ落ちる汗は先程より増していた。

「あ”ーもう無理ー!罰ゲーム覚悟でこのままかーえろ!」

大声で叫び、地面に仰向けになって大の字を描くリンク。その勢いで緑色の三角帽子もとれる。

「……ここに奇跡的に大量のきのこが空から降ってきたりしねえかなぁ…」

呟いたその直後、ザザっと草をかく音が聞こえる。
びくっと起き上がり、驚きながらもリンクは音の方角へと首を回した。

(太陽の…光……?)

その方面には複数の木々があり、隙間からは太陽の暖かい光が漏れ出していた。

(こんな所に日差しがさす場所なんてあるのか)

不思議に思い、帽子を鷲掴み頭に被り直した後、そろりと警戒しながらその木々へ近づく。そして間を覗いてみるとーー、

(エァ…)

そこには、黒髪の人物が沢山の花たちに囲まれながらに佇んでいた。
全体的に白い服を着ており、肌は雪のように白く、 頭には天使の輪っかのようなものが浮かんでいる。ーー神聖な雰囲気を醸し出していた。伺えるその長く、暗闇がほんのり紅く照らされたような黒髪から、恐らくは少女ーーと見られる。

(綺麗な、黒髪…)

ぼーっと見つめていたら、ふとその少女がリンクの方へ振り返った。

風で靡くその髪は太陽光でキラキラと輝き、烈火のように燃える赤い目がリンクを捉える。リンクは目の前の凛々しい美少女に目を奪われると同時に、何かしら違和感を感じていた。何か即視感を感じる。
どうしてだろう。顔立ちが、凄くーー、

ーーマルスに似ているのは。

突如辺り一体の白い鳥達がバサバサと大きな音をたて一斉に飛立つ。視界が鳥たちの羽に覆われ、包まれる。それはもう羽以外の何もかもが見えないレベルで。

(前が見えねえっーー)

数秒後、やっと目の前が見えるようになった頃にはもう謎の黒髪少女の姿は見当たらなかった。

リンクは呆けていた。一体あの人物が誰だったかは彼には分からない。
ふと少女が佇んでいた花畑に歩み寄ると、何かが光ってるのが見えた。光に近づき、確認する。ーー金色のヘアピンのようだった。

ーーさっきの少女が落としたのだろうか。

躊躇しながらも、リンクはそれを拾い上げる。また会ったら聞いてみよう、そう思った。

リンクは長い溜息の後こう呟いた。

「いっやー……何かのファンタジー異世界にでも迷い込んだかぁ、俺?」

とはいえ元々ファンタジー世界にいるようなものかとリンクは悟った。彼はやけくそになりながら冗談混じりに言う。

「つうか何かさっきのがミラクルかなんかなんなら大量のきのこをここに降らせてくれー!!」

そのとたん。

(ーーあ?)

空から、大量の、

(ーーやべえ、潰される)

ーー様々な形のきのこが降ってきた。

「エアアアアアアアアアアア!?」

リンクは悲鳴を上げた、直後に大量のきのこが彼に襲いかかる。身体に直撃する数多なるきのこは、一つならまだしも、複数となれば苦痛だ。もしかすれば一つでも痛いかもしれないが。
秒速数十メートルほどの速さできのこは容赦なくリンクの身体を打撃する。

「いってぇ!!いって、アアアアアア!!」

森中にリンクの悲痛の叫びが響き渡る。すぐそばにいて助けられる人は誰一人としていない。
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