スマブラ短編集

□4/20、誕生日
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「お誕生日おめでとう!」

それが、皆から告げられた言葉。

本日、四月二十日はマルス、アイク、ルキナ、リュカ、クラウス等の誕生日である。
スマブラ館住民全員が揃いに揃って彼等に歓喜、祝福の声をあげた。そして彼等自身もまた、それは幸福そうに、そして照れくさそうに笑い合い、お互いを祝う。

これがいつものスマブラ館の様子。毎回誰かしらの誕生日が来る度に皆して御祝い状態になる。なんて能天気で呑気でーー浅はかな人々だろうか。集いを横目に、青年は思案する。


ーーー
ーー



強風と言うほど強くはない、そうはいっても弱くはない程の春風が身体に吹きかかる。風に吹かれ、多少荒れた自身の髪など気にもせず、青年、クロウは屋上から街を見下ろしていた。

ーーこの平和な日々も、いつか消えさるのだろうな。

景色を、そこに居る人々をぼーっと眺めながら、そんなことが頭に浮かんだ。

ふと、後方から此方へと足音が近づいてくる。クロウは特に気にも止めなかった。ーー無論、これから起こりうる事のスケジュールは知り尽くしているから。誰なのだろうか、そうぼんやりと考えていると、やがて足音はすぐ後ろまで来て、

「こんな所で、しかも安易に突き落とされそうな所に座って、何やってんだぁクロウさんよぉ」

振り返れば、太陽に照らされ、黄金に光る金髪が見える。青空の様に真っ青な瞳を持つその青年は、ここに来た当時からやたら絡んでくる奴ーーリンクだ。

リンクの言った通り、クロウは屋上の縁に座っている。柵は無いので、安易に自害出来るし、突き落とす事も可能だった。このような点があり、屋上は普段は立入禁止なのだが、クロウはそれを無視して居座る事が多い。リンクはそれを知り得ているようで、クロウが見当たらなくなったら直ぐ様屋上へとやってくる。

ーーそこが、ウザったいんだけど。

実際、何かあればすぐ吹っ飛んでくる保護者のような立ち位置のリンクは、クロウにとっては妨害でしかない。クロウは半目でリンクを見つめながら、そう思った。
リンクは呆れたような表情を浮かべると、更に歩み寄っては、

「皆が楽しくお祝い気分な時に、お前は一人で屋上で黄昏れてるとか、陰気も様になってるっつうか、興味なさすぎかよっていうか」

そう言ってリンクはクロウとは対照的に、内側を向いて隣に座る。リンクが横目にクロウを見るが、彼は未だにすんとした表情をしており、リンクは苦笑した。

「お前さ、もうちょっと皆とつるんでワイワイしたいな〜とか思わねえの?」

「別に、興味は無いし」

「辛辣だねえ」

リンクはヘラヘラ笑う。クロウは何がそんなに楽しいのか理解出来ず、厳しい表情を浮かべた。

「ーーつうか、なんか用があるんですか」

「ん?特に何も?」

「…」

リンクのあまりの適当さに、クロウは呆れを切らし、内心苦悩した。リンクは何も考えていないかの様に、空を見つめている。

ーー何も用がないのなら何故来る必要があった。

クロウは隣にいる青年について、思考を巡らせる。今現在会場はパーティー状態なはず。それを離れてまでしてここへ来る必要があるのか。

ーー大体食堂から屋上まではそこそこ遠いが、わざわざこんな遠くまで無意味に来る意味があるのか。

これではまるで気にかけてられているかのようで。

幾ら遡っても、性質は変わる事なくお気楽で、無計画的でーー、

「邪魔、くさいなぁ」

「いきなり失礼な事言ったな」

あっとして口に手をあてる。リンクは「本当に無礼な奴だな」と言うような顔をつくった。それにクロウは若干の虚しさを感じる。

「そいえばさぁ、クロウ」

ふと、リンクが呟く。クロウは「今度は何だ」と言う感じにリンクの方へ見遣る。そして、

「誕生日、おめでとう」

笑顔でそう言うリンクに、クロウは唖然とし、「は?」と言う声が漏れる。

「マルスが誕生日なら、同じ存在であるお前も誕生日だと思ったんだけど……違うん?」

リンクは気不味そうにそう尋ねてくる。確証もないのに、先に口走って。クロウはそのリンクのいい加減さに嫌気が差すもーー、

(そうか、今日、誕生日だったか)

不思議と、悪い気分じゃない。

クロウが誰かに誕生日など些細な事を祝われるのは、思えば久しぶりの事だった。最も、クロウ自身あまり関心が無かったので、今まで特に気にもとめてなかったが。
自身の誕生日を忘却してしまう程に長い間、クロウは祝賀されておらず、改めてこうして祝われてみると、不思議なものだった。ーー嬉しいのか、そうでも無いのか、はっきりとしない感情が心に募る。

「なにボケっとしてんだ。間抜け面だぞー」

ふとリンクの一言で我に返る。そんなに変な顔をしていただろうか。内心ちょっぴり羞恥しながらも、クロウは何時もの無表情に戻る。

「ーー長い間、祝われてなかったから、なんか不思議で」

「うぇ、そんな不穏な環境にいたのかお前。周りとどんだけ険悪な関係築いてたんだよ」

リンクが苦い顔をしながらそう返す。クロウは不穏では無いだろうと反感を持つも、ここ程の能天気な場所ならその例えが妥当だろうかと納得した。

「じゃあ、久しぶりに祝われてる訳だ。ーーやっぱ、嬉しいか?」

そう問われ、クロウは微妙な顔をつくる。リンクはそれにきょとんとしながらも、クロウに耳を傾ける。

「それも…不思議な感じで。素直に喜んでるのか、それともそうじゃないのか。さっきからよく分からない感情に見舞われてるんです」

リンクはぼーっとしながらクロウの方を見つめる。クロウはその姿に、眉間にシワを寄せながら、内心ちゃんと聞いているか疑心する。

ーー幽霊みたいに気が上がり下がりして、ハッキリしない奴だな。

クロウはそう思った。が、

「そんなら、それ、嬉しんだよ、きっと!」

「ーーうん?」

立ち上がり、ニッカリ笑いながら指を指して言うリンク。クロウは投げ槍なリンクの発言に、再び唖然とした。そんなクロウを見るにリンクは言葉を続ける。

「それは、自分の感情に素直になれてないだけ!年に一度の祝日なんだから、それは祝われて嬉しいのが当たり前だろ?」

そう言い切るリンクだったが、あまり論理的と言えるものではなかった。

ーーTHE・自分理論だな。

クロウはそう思い、呆れながらも、そんなリンクの姿勢に内心安堵したのか、「ふっ」と笑い声が漏れた。リンクはまだニコニコと自信のある笑みを浮かべている。

「憎たらしいなあ」

含み笑いでそう呟き、クロウはリンクの身体を強く押した。リンクはバランスを崩し、危うく落ちそうになるところを、クロウが腕を掴んで救助する。

「いきなり何すんだ!死ぬかと思ったやろ!」

「だっさいなぁ」

「おっまえなぁ……」

リンクが真っ青になりながら叫ぶ。クロウはそれを横目に嘲笑しながら、屋上出口へと向かった。

「おい、どこ行くんだよ。まーた失踪する気か?」

疲れたような声で、リンクが立ち去ろうとするクロウを呼び止める様に問う。クロウは一瞬間を置いてから振り返ると、

「主役抜かしてワイワイは、ねえだろ」

「ーー?」

リンクは疑問の表情を浮かべる。それを見るにクロウは悪い笑みを浮かべた。

「パーティーを、荒らしに行きます」

そう言うと、クロウはまた歩みを始めた。「全く」、リンクは呆れながらに呟き、苦笑した。

(今日はあいつの意外な面が見れたかもな)

そう、内心思いながら。

そしてリンクもまた、屋上出口へと向かった。


ーーー
ーー



この後、スマブラ館で大火災があったのは言うまでもない。
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