短編小説

□僕は君の優しさに溺れる
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立ち上る湯気。
シャワーの音、水しぶき。
それら越しに見える背中。
男の背中になんか、何とも思わないと思っていたが、どうやら予想よりもドギマギしている自分がいて。
心臓が、もちそうにない。


チャプ、と肩にお湯がかけられる。
後ろから抱きつかれるように、同じ方向をみて湯船に二人。
彼からは僕の後頭部と肩が見えているのだろう。
スッポリと足の間に収められているのが、男としては少し不服ではあるが。
向かい合う勇気と度胸はなくて。
彼の提案を受け入れた。
背後の彼に気を使って小さく膝を折る。

「足、伸ばしていいよ」

ぐっと引き寄せられて、背中はすっかり彼の胸板の上。
僕からは彼の腕と膝しか見えない。
しかし包み込まれるような安心感に、そっと息を吐いた。


今更、裸を見られたってどうって事はない位の関係になっても、まだドキドキできる事はある。
スタジオでこっそり隣の席に座ること。
暗がりでそっと彼に寄り添うこと。
そして、こうして二人、湯船に浸かること。
初恋の女子か、と思ったりもするが、どうしようもない。
なんでもないことが幸せ過ぎて、胸が苦しくなる。
失いたくないと、縋り付きたくなるのだ。


「寒くないか?」
「…ぅん」

優しい彼に甘えるような、こんな時間を大切にしたい。
逆上せそうな暑さの中でボンヤリと考える。
ねぇ、なんでそんなに優しくするの?
(君に…溺れてしまいそうなんだ)

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