読み切り

□腐男子君の思惑
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そろそろ梅雨明けしようかという中途半端な時期に、

「あ」
「ど、ども」

僕の学校に一人の転校生がやって来た。




腐男子君の思惑


もう7月に入ったというのに、毎日のように雨が降り続いている。
とは言ってもどこかに出掛けるような予定もないし、外で活動するような部活にも入っていない僕には関係ないんだけどね。

その日もいつものように自分の部屋にこもり、僕は大好きな作家さんの薄い本を読み耽っていた。

(――ピン、ポーン)
「……ん?」

その時、控えめに来客を知らせるインターホンが鳴る。

「来た!」

僕は読んでいた同人誌を閉じ、一目散に玄関へと向かった。

この時期にしては珍しい転校生が僕のルームメイトになるって寮長の篠塚先輩から聞いて、実は今日の日を楽しみにしてたんだよね。
どうやらその子のお父さんの海外赴任が急に決まったそうで、片親の彼はうちに来たみたい。

なんでも市内の進学校に入学した矢先だったとか、ホント、ついてないよね。
まあ、僕からしたらラッキーなんだけど。
そこも男子校ではあるんだけど、残念ながら学生寮はなくて。
そんなこんなで中途半端だけど、今日からうちの学校に通うことになったようだった。

実は僕は腐男子ってやつで、転校生がやって来るのを心待ちにしていた。
けど、まだ入学して三ヶ月しか経ってないし、転校生に遭遇するのはもっと先だと思っていて。

それがこんなに早くやって来るだなんて、やおいの神様、ホントにいい仕事してるよね。
入学してみてわかったんだけど、うちの生徒会役員は、見た目は王道学園そのままだったりするし。

俺様会長に、王子様でハーフの副会長。
会計はチャラ男と無自覚で豆柴な自称平凡君で、吃音わんこな書記はいないけど、代わりに爽やかでスポーツマンな書記がいる。
もう一人の書記は、不良で目付きが鋭い総長タイプの先輩で。
ちなみに抱きたい、抱かれたいランキングはないけど、普通に人気投票で選ばれたメンバーだ。
性格はちょっと違うみたいなんだけど、そこは脳内で変換(妄想)すれば問題ないし。

うちの学校は王道学園のような金持ち仕様とまではいかないけど、それなりの家柄のエリートが集まる全寮制の男子校だ。
もちろん、幼稚舎からの……と言いたいとこだけど、一応、中高一貫教育の。
規模こそ王道に比べたら小さいけど、それなりに伝統がある学校で。
学生寮は2LDKのユニットバス付きの学生向けのアパートで、一応はオートロックだけど、残念ながらカードキーじゃない。

けど、付き合ってるカップルはスペアキーを交換できるし、他の生徒と部屋を交換することもできたりと自由度が高い。
基本的には快適に暮らしていける造りになってるから、近所には大きなスーパーやコンビニ、飲食店もいっぱいあるし。

それはともかく早くそのお顔を拝もうと、勢いよくドアを開けたら、

「あ」
「ど、ども」

なんというか、これまた中途半端な見た目の転校生が立っていた。
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