遠くて近い

□もう恋なんてしない
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朝から何度目かの溜め息をつく。

「朝陽(あさひ)、大丈夫?」
「ん?ああ。問題ない」

どうやら夕陽(ゆうひ)に見られてしまったようで、俺は意識して顔の表情を引き締めた。


俺と夕陽は双子の兄弟で、俺が高等部の生徒会長を、夕陽は副会長をやっている。
今年度の生徒会役員は去年の暮れの総選挙で決まったが、所詮は人気投票のようなものだ。

なんの因果か俺は今年度の抱かれたいランキングの1位に、夕陽は2位に選ばれた。
ちなみに夕陽は抱きたいランキングでも3位に選ばれているが、我校ながらこの学校はどうかしている。

俺達が初等部、つまりは一般的には小学校の頃から通っている男神(おのがみ)学園、通称、男学(おのがく)は小中高と一貫教育の男子校で、女子生徒が一人もいない。
そればかりか間違いを起こさないようにとのよくわからない理由から、教職員も全て男だった。

そんなある種、異常とも呼べる特殊な環境の中で思春期を迎えるものだから、男らしい性格のやつと女っぽい性格のやつ。
それに、男らしい見た目と女っぽい見た目のやつとで、所謂、男女の役割が分かれ、擬似恋愛へと進展してしまう。

俺はどちらかと言えば男の役で好かれることの方が多いが、過去には、人に言えない苦い体験をしていた。

まあ、この話はいずれまた。


この抱きたいランキングと抱かれたいランキングで上位だった生徒が軒並み生徒会役員にも選ばれるんだけど、自分で言うのもなんだが、見た目は勿論、そこそこの成績のエリート揃いだ。
それは人気者はこぞって家柄もよく、その後継者だったりするものだから、あながち人気投票とは侮れないものがあるからだろう。

実際に俺も学年で首位ではないにせよ、トップ10には毎回必ず入っていたり。
それは副会長の夕陽も同じで、会計の神田(かんだ)以外はこぞって秀才でもあり。

神田だけは、まあ、あれだ。
おバカなチャラ男ってやつだ。
深く突っ込まないでやってくれ。

生徒会役員の苗字は偶然にも、全員が『神』の字を含んでいる。

会長、副会長の俺らが水神(みなかみ)。
書記は、神前(かんざき)。
会計は、神田。
広報は、神谷(かみや)。
庶務は俺らと同じ双子で、二人の苗字は『神楽』(かぐら)と言う珍しい苗字だ。

実は、新歓の翌日も総選挙が予定されていて、新入生の中からも書記と会計が一名ずつ選ばれる予定だ。
他にも必要に応じて新入生の中から庶務を増やすことも可能で、その他にも補佐役は学年問わず何人でも増員出来るんだけど、そこまでは神懸かった偶然も続かないか。


そんな生徒会役員の主要メンバー、つまりは俺らは、一部の生徒達から『神セブン』と呼ばれていたりする。


なんつーか、どこぞのアイドルかっつーの。
俺は正直、人ごとなんだけどね。

俺は俺様に見られがちだけど、実は極度の人見知りで、おまけにあがり症と赤面症も患っていたりする。
おまけに夕陽に言わせると、俺は超照れ屋なんだそうだ。
俺自身は人見知りの自覚はあるけど、照れ屋だという自覚は全くないんだけどな。

だから、本当はひっそりと目立たず大人しくしときたいところだが、生憎、元財閥で大企業グループの家柄が邪魔をする。
俺と夕陽には10歳上の兄がいて、この兄貴は既に水神グループの主要会社の一つの社長の座に着いている、水神グループの立派な後継者だ。
因みに兄貴は既に結婚して子供もいて、この子供が男女の双子で物凄く可愛くてさ。

つまりは、俺は後継者でもなんでもないからほっといて欲しいのに、水神グループのネームバリューは自分が思うよりも大きくて。
そんなあれこれを諦めた結果がさっきの溜め息で、目敏く夕陽に見咎められてしまった。

まあ、生徒会室に篭っている間だけは平和だけど。

その時、

「水神、いるか?」

ノックもなくドアが開き、平和を乱す部外者が、ずかずかと生徒会室に乱入して来た。
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