眠れる森の委員長
□委員長争奪戦
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藤田side(不良)
授業が始まる一時間前に登校するだなんて、中学までの俺には考えられないことだ。
ついでに言ってしまえば毎日サボらずに登校してるとか、しかも二年生になってからは皆勤賞だなんて、中学までのツレに知られたら眉唾ものだ。
「おはよっす」
一応、一声かけ、なるだけ音を立てないようにドアを開けて教室に入る。
すると、窓際の真ん中の委員長の席で、机に突っ伏して眠っている委員長の姿が目に入った。
どうやら俺が一番乗りだったようで、
「……(よっしゃ)!」
思わず、心の中でガッツポーズを決める。
委員長の家は電車で一時間掛かる田舎町にあり、電車の本数も少ないらしく、いつも校門が開くと同時に学校に入るぐらい早く登校している。
それを知った俺は早起きするようになり、今では委員長に次いで一、二を争う早起きだ。
とは言っても、教室に着いてからの委員長は、ホームルームが始まるまでずっと寝てるけど。
「…………」
委員長の隣の自分の席に着き、委員長の顔をそっと覗き込む。
幸せそうなその寝顔は俺の癒しで、委員長の笑顔は俺の一日の活力になる。
うちの学校は中高一貫の男子校だが、俺は高校からの途中入学組だ。
中学の時の俺は荒れていて、進学校であるとともに寄付金を積めば裏口入学出来るこの学校に放り込まれた。
当然、一年の時はそんな不良達の吹き溜まりのF組だったが、一年の夏に委員長と出会ってしまった俺は、必死に勉強して二年の今年は委員長と同じクラスになった。
もともと小学校まではクラスでは一位の成績だったし、勉強するのは別に嫌いじゃない。
ただ、同じ学年にどうしても抜けないやつがいて、学年で一位の成績が取れなかった俺は、中学入学と同時に親父に見限られたのだ。
まあ、そんなことはどうでもいいが、今のうちに委員の寝顔を目にしっかり焼き付けておこう。
そろそろ他のクラスメートが登校する頃で、そうなれば一気に教室が騒がしくなるし。
「はあー、癒されるー」
机に頬杖をつき、委員長の安らかな寝顔をただ眺める。
委員長のことは、別にどうこうしたいわけじゃねえ。
ただ、見守っていたいのだ。
(――――ガラッ)
「――っっ」
「よう、住友」
「ふ、藤田君。おはよう」
そう。
この住友みたいに、不埒な男どもから。
住友はクラスで一番のがり勉野郎で、俺と何かと一、二を争っている。
勉強とかじゃなく、どっちが早く登校するとか、どっちが委員長に言付けするかの争いね。
住友は俺とは違い、むっつりスケベに違いない。
こんなやつに委員長をやれるかっつーの。
別に住友がどうこう言うわけじゃないが、委員長だけは渡せない。
牽制するように軽く睨むと、住友は慌てて自分の席に着いて前を向いた。
「……チッ」
怖がらせちまったかなと、軽く自己嫌悪。
本当は住友とも仲良くしてえけど、どうも中学ん時の癖で、がり勉眼鏡はパシらせたくなっちまうんだよな。
俺の舌打ちでびくりと肩を跳ねさせた住友。
怖がらせたくなんかないのに、どうも上手くいかない。
「……くそっ」
思わず独りごちたその一言にも、住友がびくりとしたのは言うまでもない。