幻想郷物語

□第1章 巫女と魔法使い
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気がつくと蒼は神社がみえる茂みに倒れていた。蒼は体を起こし、ふと神社の境内の方をみた。すると、神社の境内では頭に赤いリボンをした巫女らしき女性が箒で掃除をしていた。蒼が女性に近づこうと立ち上がると、草木が静かに揺れた。突然、ヒュンッという風を斬るような音がした。そして蒼のすぐ後ろにあった木に何かが突き刺さったような音が聞こえた。蒼は後ろを振り返った。突き刺さった物をみてみると、なにやら紙のようなものだった。
普通、紙は木に向かって投げたとしても刺さることはない。(木の枝に刺さることは別として)せいぜい木に貼り付く程度だろう。だが、この『紙』は木に深々と突き刺さっていた。
「これは…御幣?」
蒼が心の底から驚いていると「誰?」と後ろから問いかけられた。
振り返ると先程まで境内の掃除をしていた女性が左手に箒を、右手には木に深々と突き刺さっている御幣と同じものを持って立っていた。蒼はこの女性が御幣を投げたのだとすぐに察することができた。
「ねぇ、あんたは誰?」
「あ、俺のこと?」
「あんた以外に誰がいるのよ…」
女性は呆れたような表情を浮かべた。
「俺は秦蒼。高校生小説家だ。気軽に蒼って呼んでくれ。よろしくな」
「私は博麗霊夢。見ての通り、巫女よ。主に妖怪退治をしているわ。よろしくね、蒼」
霊夢は御幣を懐にしまうと、蒼に手を差し伸べた。きっと、握手を求めているのだろう。蒼はそれに察し、霊夢の手を優しく握った。
霊夢は蒼の手をギュッと握り返し、しばらくしてからグイッと蒼を茂みから引っ張り出す。
「蒼、ちょっと頼まれてくれるかしら?」
「え?何をだ?」
霊夢はニコニコとしながら蒼の右手に箒を握らせた。
「神社の境内の掃除♪」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「私は人里に行ってくるから後は頼んだわよ〜♪」
霊夢は地を蹴り、空の彼方へと飛んでいった。
あり得ないことが目の前で起こり、蒼は目を見開いていた。
数分後、蒼は正気に戻るとため息をつきながら境内の掃除を始めた。
霊夢が人里に行って30分ほど経った。神社の境内はすっかり綺麗になっていた。
「ふぅ〜、疲れた。久々だな、こんなに真面目に掃除したのは。休憩しながら霊夢待ってよ…」
蒼は賽銭箱の隣に腰を掛け、箒を賽銭箱の裏に置いた。なんとなく空を見上げていると、何かがこちらへ向かってきていた。徐々に近づいてきたそれは箒にまたがった金髪の女性だった。
女性は境内に降り立つと、箒を左手に持ち、帽子を被り直した。
「おーい、霊夢〜。遊びに来てやったぜ〜。…いないのか?」
「霊夢なら人里に行ったぜ」
「ん?誰だ?見かけない顔だけど。私は霧雨魔理沙。魔法使いだ。よろしくな」
「俺は秦蒼。高校生小説家だ。よろしくな」
魔理沙はスタスタと歩き、蒼の隣に座った。
「お前に2つ質問したい。いいか?」 「お、おう…
「1つ目の質問。蒼は幻想郷にいつからいたんだ?」
「幻想郷?」
蒼は首をかしげた。
「幻想郷ってのは私達が今いるこの世界の名前なんだ」
「ふ〜ん、そうなんだ。俺、今日ここに来た」
魔理沙は何かを納得したように頷いた。
「2つ目の質問。蒼はどうしてここに来たんだ?なんか理由があるんだろ?自分を知っていた人達全員に忘れられたとか、なんかして妖怪になったとかさ」
「えっと昨日、俺の携帯に世界の管理人って名乗る知らない女から電話かかってきて、心閉ざした少女を助けて欲しい的なこと言われて気付いたらそこの茂みに倒れてた。あと、そいつは結界を操るとかいってたな」
「管理人で結界を操るってことは紫か。そんで心閉ざした少女はこいしのことか…なるほど、あいつのしたいことがなんとなくわかったぜ」
「どうしたんだ?魔理沙」
「あ、いや…こっちの話だ」
魔理沙は蒼から顔を背けた。
それから霊夢が帰ってくるまで2人はお互い何故だかわからないが気まずくなり、会話を交わさなかった。
人里から霊夢は帰ってくるなり、タンスから御幣やお払い棒を取り出した。
「霊夢帰ってくるなりどうしたんだ?」
「蒼!早く紅魔館へ行って!」
「どうしたんだよ霊夢。そんなに慌てて。紅魔館でパーティーでもしてんのか?」
「違うから!とにかく説明は向かいながら!魔理沙と蒼は早く飛んで行きなさい!」
「はぁ?!俺飛べねーよ?!」
「蒼は私の箒の後ろに乗れ!」
「お、おう…」
ドタバタしながら3人は紅魔館へと向かっていった。
「んで?なんで紅魔館に行かなきゃ行けないんだ?」
魔理沙は前をみたまま横に飛んでいる霊夢に問う。
「…フランが暴走しそうなの。感情が押さえきれなくて前みたいになってるって人里で咲夜が伝えてくれた。今は何とかレミリア達が止めてるけど、やられるのも時間の問題。もしかしたらそろそろヤバイかも…」
霊夢はさらにスピードを上げた。魔理沙はスピードを霊夢に合わせる。
「…こいしが心閉ざしたから、フランの悲しみの感情が膨れ上がる。そしてそのまま感情を押さえきれず、暴走しそうってとこか」
「そういうこと」
「あのさ、フランってどういう奴?」
「吸血鬼よ。破壊神的な存在の」
霊夢が横目で蒼をみながらいった。
「俺こないほうがよかったじゃん!絶対に秒殺じゃん!俺神社に帰るぅ〜」
蒼はまるで幼い子供がオモチャを親にねだり、その場で暴れるように箒の上で暴れ始めた。
「うわっ!蒼、箒の上で暴れんなよ!私は魔法でなんとかなるけど、お前は落ちて死ぬぞ!」
魔理沙がいうと、蒼は急に大人しくなった。
そんなことがありながら、ようやく紅魔館が3人の視界に写ったのだった。

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