幻想郷物語

□序章 少年と女
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ジリリリーンと、けたたましい音をたてる目覚まし時計。俺は眠い目を擦りながら、そのうるさい目覚まし時計を止める。
「朝…か…起きなきゃな…」
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。部屋の中央にある机の上には、1台のノートパソコンが起動したままになっていた。どうやらパソコンの電源を落とさないまま、寝てしまっていたらしい。
「パソコン片付けて、飯食って、仕事しよ。ちょうど学校が休みだし。」
学校が休みといっても、俺だけだ。
俺は高校生であり、売れない小説家。だから小説の〆切が学校の日と被ってしまっているが終わっていない場合などは、今日のように学校を休んでいる。(もちろん、担任は知っている)
俺は私服に着替えようとしたその時、ブーブーとスマホに電話がかかった。
知らない番号だ。
「もしもし、<幻刀狼牙>さんですか?」
「あ、はい。俺が<幻刀狼牙>です」
女のようだが、俺の担当の人でもない。聞き慣れない声だ。
「いきなり質問するわね。あなたがもし、心を閉ざしている知らない少女と出会ったらどうする?」
「えっ?」
一瞬、質問の意味がよくわからなかった。突然、知らない女からそう質問され、俺ならどうするかと聞いてきたから。俺以外の奴が同じ状況にあったのならば、きっと今の俺と同じ反応をするだろう。
「俺は…助ける。時間をゆっくりとかけて。何故心を閉ざしたのかなどをゆっくりと聞く。他人だから関わるなといわれて、はいそうですかって引き下がるわけにはいかない。他人を助ける理由なんていらないんだから。だから何があっても、俺はその子を助ける」
数十秒の沈黙。それを破ったのは女の方だった。
「…そう。最後の質問。あなたはこっちの世界に来る気はある?」
「こっちの世界?どういう意味だ?」
「私がいるこっちの世界はあなたが住む世界とは別の場所。こっち側はあなた達の非常識、そっち側はあなた達の常識。こっち側の常識はそっち側の非常識、こっち側の非常識はそっち側の常識。そうやってわけられているの。だから、こっち側からそっち側は見えないし、そっち側からこっち側は見えない。」
「じゃあ、仮にその話が本当だとしたら、どうやって今、俺と話せてるんだ?」
「一応私はこっちの世界の管理人よ?結界を操る…ね。それで?こっちの世界に来る気はあるの?<幻刀狼牙>あらため、<秦蒼>くん?」
「なっ!なんで俺の本名を!」
俺の本名は担当の人、学校の友達、家族、親戚しか知らないはずだ。否、教えてないはずだ。本名が知らない奴にばれ、携帯の番号を知られてしまった俺に残された最後の選択肢。それは、小説家をやめ、誰も知らないところに行くこと。もちろん、家族にも知らせないで。家族は俺が小説家なのを知らない。父さんに許しをもらえないから、内緒でやっていたのだ。
「俺は…」
「最初にした質問にでてきた少女はこっちの世界にいるわ。助けて…くれるわよね?」
俺は1拍置いてからいう。見知らぬ少女を助けたいという思いを抱え。
「いいぜ、俺が助けてやるよ」
電話の向こうで女がフフッと笑った。

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