東京少女
□新居の少女
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買い物袋を手に下げ楽しそうに子供と話すお母さん、忙しそうに電話をかけながら歩くスーツのお兄さん。
木もビルも人も皆んな同じ速さで私の前をどんどんと、びゅんびゅんと通り過ぎていく。
すごい
初めて見る景色に気分が高揚する。
移動する車内の2列目で、窓に顔を押しつけるようにして外を眺めていると、先ほど六月くんと名乗った中性的な顔立ちの少年が話しかけてきた。
「何か見える?」
「はい!人とビルが見えまます」
「んなの当たり前だろ?外なんだからよ」
髪のてっぺんがクジラの潮のようにはねていて、ギザギザの歯をした青年。
確か…そう。知不くんという青年が退屈そうに頭の後ろで両手を組み直した。
「夏ちゃんは確かCCGの本部から出たことがないんだっけ?」
僕も詳しくは聞いてないんだけどと、佐々木一等がハンドルを右にきりながら質問した。
同時に窓からの景色も右方向に揺れる。
「そうなんです。だから街の様子を見るの初めてで」
「って初めてぇえ⁉人生でっ⁉人生で一度もねぇのか⁉」
知不君は余りの驚きに私の肩を掴んでガクガクと揺さぶった
「わわっ!そうですそうです!」
「(捜査の邪魔が増えて)大変だな…」
「知不くんそこら辺にしてあげないと夏ちゃんが…」
ガクガクと揺らされる視界に気持ち悪くなり始めたところで、心配した陸月くんが止めに入ってくれた。
「あ…悪ぃな」
「助かりました...」
大丈夫?と心配そうに眉を下げる睦月くん。私が大丈夫だと伝えると、よかったと女性も顔負けの笑顔を返してくれた。
真戸上等…ここに天使がいます。私は今度会ったらそう報告しようと心の中で誓った。
「でも、夏ちゃんって21歳だよね?どうしてそんなに長い間本部から出られなかったの?」
「いや、21年間ずっとって訳ではないんですけど
この2年はCCGで有馬さんの訓練を受けていて単に外に出る機会がなかったんです。でも残りの19年分は記憶がなくて…」
皆んなの視線が私と運転席の佐々木一等に交互に集まる。
「それってサッサんと同じじゃ…」
知不くんがそう呟きかけたとき
玄関の前で車が止まった。
「着いたよ」
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