死にたがりの中将様

□死にたがり中将様-序章-
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ドォォォンッという大砲の音。
ギィィンッという刃と刃の当たる音。実力が同じもの同士の戦いは見ていてワクワクするし、火花散る戦いで自分も混ざりたいと思う。
だが、どの攻撃音も俺に向けてではなく周りの部下達に向けてだった。

「中将殿ォォッ!!危ないッ!!」

ん?と上を見上げると海賊が3人、大きな刃を振りかぶっていた。
うん。力強い、良い太刀筋。
だけど満点じゃない。
懐から小刀を取り出して、まずは目の前の敵の心臓めがけてズプリ。
次に、左横の敵の腹に向かって肘を思いっきり沈ませると気絶してしまう。もう1人、斬りかかってくるバカにはさっき拾った拳銃で撃ち抜いてやる。

「あれ?もう終わりかい....つまんないの」

拳銃をポイっと捨てて戦場の最前線へ
我が隊のツートップ、ギンが頑張ってくれていた。息も絶え絶えで、幹部相手につっこんで行く。
それじゃダメだと何回教えただろう。
確実に殺されてしまうのでギンの腕を横から掴み後ろに投げる。
何が起こったのか分からない顔をしているので一言。

「ギン。敵を確実に殺すにはね、こうするんだ」

よく見てなさい。
そう言って相手と真正面に立つ。
しばらく何もせず突っ立っていると堪え性のない相手は先程のギンのように突っ込んでくるのだ。
こういう奴の心理はよく理解できないが分かりやすい。
相手が持っているライフルを盗み取り、足をかけて転ばせる。相手が立ち上がろうと呻いてるうちにライフルを相手の頭にセットする。そして、振り向いたところを撃ち抜いてやる。
ライフルは借りたまま敵船の船長や幹部たちがいる巨大な船に向かう。
何人か隊に入ったばかりの新人が俺を止めようと手をのばすが、それを古株たちが大丈夫だと止める。

「さてと始めるか」

敵船を前にしているとは思いもしない穏やかな顔で腰の刀に手をかける。
鞘から引き抜き軽く一振りする。途端に船が綺麗な木目の切り口を残して真っ二つになってしまった。何事かと海賊たちがゾロゾロ出てくる。

「っ!?クソッお前らッやっちまえ!!」

船長の合図で周りの海賊たちは声をあげ1人の男に向かって突進する。
攻撃をかわしつつ、確実に殺していく。
1人、また1人と斬り捨てる度にハルの口角は上がり目は爛々と見開く。
なんの汚れもなかった白い海軍の上着は相手の血で真っ赤に染まっていた。
最後の脅しのように巨人族が出てくる。だが、ハルにとっては巨人族など普通の人間とさほど変わらない。
地面を何回か蹴り、グンッと巨人族の頭と同じくらいの高さまで飛び上がると頭から足の先まで一気に斬り落とした。その光景を見た者は相手も敵も息を呑み、その背を目指す者もいれば恐れ慄き近付かない者もいる。
ハルを見た相手の船長は顔を真っ青にして呟いた

「あ、あいつはぁ...海軍の死神じゃねぇか.....」
「呼んだ?」

ニッと笑ってその頭に借りて来たライフルを突きつけて引き金を引く。
船長の首を持って仲間の元まで戻ってくると血染めになったコートを脱ぎながら

「引き上げようか。怪我人は先に連れて行って、船の中では自由、飲んでも食べても鍛錬しても良しッ!以上ォッッ!!」

指示を終えてまだポーッと敵船を眺めているギンの肩を支えて立たせる。
最初の言葉は謝罪だった。

「...すみません。僕が出しゃばって見くびって...ハルさんに手を煩わせてしまうなんて」
「別に良いよ。むしろ楽しかった。まぁ...今日もまた失敗だけど」
「え?....あ」

聞き返し、間を置いて気づいたように目を開き、下を向く。

「なんで君がそんな顔をするんだい。私情だよ」
「で、でも」

言いかけて止めた。
ハルは綺麗なギンの髪を撫でて俺の問題だよ。と言いなおす。
船に戻るとハルの隊の海兵達は個人個人で好き勝手していた。ハルの正義は『個々の正義』と称しているので任務が終われば皆自由なのだ。
ハルは一足先に自室のシャワールームに入り、体についた血を洗い流しながら自分が映る鏡を見る。
首と手首、心臓あたり中心に傷が多くなっている。ひとつひとつを撫でて最後はやはり首にいきつく。
軽く自分の首を締めながら、ポツリ、先生...と呟いて

「また失敗。また死ねなかったよ」

ハルの部屋にはシャワールームから流れる水温だけが派手に響いていた。

・ ・ ・

「ギンさんまーた無茶してぇ〜」
「そうっすよ!ハルさんいなけりゃどうなってたか」
「ッ...うるさい」

甲板の手すりに背を預け体育座りをする。同僚からの冷やかしも、波の音もどんちゃん騒ぎを起こしている部下達の声も今は聞こえなかった。
また失敗。
そのハルの声がずっと残っていた。
ハルの強さと立ち振る舞い、そして何よりその優しさに一目惚れし、入隊してツートップになれたのは良いが「失敗また失敗」と言われ続け、その意味を知っているから余計に腹がたつ。
憧れの人を救えない自分が、守ろうとして護りきれてない自分が。

「嫌いだ」
「あん?なんつったー!!?」
「うるっさい。お前じゃない!!」

海軍本部に着くまで、あと数時間。
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