パドロックパズル
□第07話 安堂勇
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学校が終わってアパートに帰ってきたのだが、どうにもゲームに手が伸びねぇ。
安堂が見せた意外な一面が頭から離れねぇからだろうな。
明津誠「(…けど、教室に戻ってきた頃には、すっかり“いつも通りの安堂”に戻ってやがったな…)」
開口一番のセリフが。
安堂勇「ふぅ。学業という名の鎖に縛られし時ほど…、あの幸福が恋しくなるものだ…」
だったな。
その“幸福”ってのは、ウサギ小屋の連中と遊んでた時のことを指してんだろうけど。
明津誠「(あれが素の性格か…? 今更になって表に出すのが恥ずかしいとか…? まぁ、普段が相当イタイ奴だし…、ありえるか…)」
安堂の問題は、自分の意見や考えを押し通す点にある。
しかし自分から仲間の輪に入るようなことはしない。
花梨が言うのは、自分が輪を乱すことを察している、と言っていたが。
明津誠「(学校側からも“コミュニケーションを取ろうとしない”と言われるほどだしな。本当の自分を曝け出すことに抵抗感を持ってる…? 普通に考えりゃ、中二病の方が恥ずかしさ爆発だと思うんだがな…)」
今は考えてても仕方ねぇか。
とりあえず安堂のことは、今後の学校生活の中で解決させるとして、今は学校に通ってすらいない大希の方が優先だ。
今や流行りまくってるゲームを起動。
自分そっくりのアバターで電脳世界に入ってみれば、そこに広がるのはファンタジックな世界の城下町。
ゲームの中の俺は、城下町の一角で鍛冶屋を営んでる男性キャラクターになっていた。
面白味が無ぇって? 放っとけ。
徳永心「あくませんせーッ!! たすけてぇーッ!!」
明津誠「ぅぉお!!?」
店の扉に頭から突っ込んできやがったのは、魔法少女のような姿をした徳永のアバターだった。
女子高生のくせに、その言動の幼さから似合いすぎてて逆に笑えねぇ。
明津誠「どうした。また自分の城が崩れたのか?」
徳永心「崩れたんじゃなくて壊されたの! せっかく素材いっぱい集めて作ったのにぃ!!」
明津誠「壊された?」
俺が手伝ってまで作ってやったってのに、いったい誰が…。
徳永心「スライムめっちゃ意地悪ぅ」
明津誠「耐久度を上げろ。最弱の雑魚モンスターに負けてんじゃねぇよ」
徳永心「だってぇ…。建築物のレベル上げると、見た目が可愛くなくなっちゃうんだもん……」
明津誠「もう普通の貸家にでも住んじまえよ。クエストが進まねぇだろ」
そもそも、スライムに壊されちまうほど手抜き工事な住処で生活しようとしてやがったのか。
このゲームにはアバターの死亡オプションもあるってのに、マジで死んじまうぞ。
野川希「…………」
明津誠「あ…。おい徳永。野川が外で待ってるぞ」
徳永心「ふぇ?」
明津誠「一緒に遊びに行くんじゃねぇのか? 思いっきり重装備だぞ」
魔道士のような格好をした野川の姿が確認できた。
おそらく、これから魔物討伐のミッションにでも出掛けるのだろう。
この間も一緒にクエスト参加していく姿を見かけたばかりだ。
徳永心「ふぉおッ、そうだった! バイバイあくませんせー!」
壊された家の件は、後日にでも再建を手伝わされそうだ。
明津誠「……あ、そうだ…」
徳永と野川を見送った後、鍛冶屋を出てから別方向に歩いていく。
目指すのは、この町を支配している野郎の城だ。
城下町の住人でも自由に出入りが可能な緩い警備網を突破していくと、俺の目の前には顔見知りの王様が現れやがる。
鳩岡光「おぉ、新人の鍛冶屋か。今日は何用じゃ?」
明津誠「(ビジュアルは髭面のおっさんなのに、声だけは鳩岡なんだよなぁ)」
このゲームの、至るところを出歩いているNPC。
その総数、実に百人単位。
対して、出演している声優は数十名。
鳩岡が演じてるキャラクターと会話するのも、これで何人目になるだろうなぁ。
明津誠「初心者に優しい、オススメのクエストを教えてくれないか? 小金を稼げるなら雑用でもいいぜ」
鳩岡光「ふむ…、そうじゃな…。では剣を磨いでもらうとしようか。武器庫に何本か鈍らがあったはずじゃ」
明津誠「鍛冶屋ならではのクエストか。望むところだ」
自由度が高く、やり込み要素も多い。
このゲームが流行ってる理由を体感しつつ、城の武器庫に行こうとした俺だったが……。
安堂勇「たぁのもぉおおお!! 我が国の王よッ!」
明津誠「おおッ!?」
謁見の間の扉をド派手に開け放って現れたのは、典型的な冒険者の姿をした安堂のアバターだった。
唯一、冒険者としての要素が欠落している点を挙げるならば、まだこいつは武器を持っていない。
何処をどう見ても完全に手ぶら状態だった。
鳩岡光「冒険者よ。何用じゃ?」
安堂勇「我に相当の武器を持っている鍛冶屋が、この城に向かったとの情報を得たッ。何処にいる!」
明津誠「あ?」
安堂勇「む?」
その鍛冶屋って…、まさか…。
安堂勇「…おぉ。誰かと思えば、リアリティワールドで我の恩師をしている者ではないか」
恩師……。間違っちゃいない、か。
つーか“リアリティワールド”って。
安堂勇「こちらの世界では、この我に似合う剣を作る腕を持っているようだな?」
明津誠「そういう設定なのか?」
安堂勇「設定など知らぬッ! さぁ、我に武器を授けるのだ!!」
上から目線だな、この野郎。
教師と生徒っつー関係だし、学校ん中じゃこんな会話も出来ねぇからなぁ。
明津誠「分かったよ。お前に似合う武器は作ってやる。だが今は少し待っててくれ」
安堂勇「何故だ?」
明津誠「鍛冶屋の仕事も楽じゃねぇんだ。剣を一本作るだけでも、それなりに金が掛かるんだよ」
安堂勇「その金は我が支払うのではないのか?」
明津誠「商品を買ったり治したりする分の金は貰うが、さすがに材料費までは受け取れねぇよ。急ぎの用事があるなら武器屋に行ったらどうだ?」
武器屋なら、まぁ面白味のない定番な武器ばかりだが、今すぐにでも武器は手に入る。
オーダーメイドのオリジナルが欲しい場合のみ、俺みたいな鍛冶屋を訪ねるモンだ。
その分だけ代金も跳ね上がるし、最初は普通に武器屋の方を訪ねると思うんだがなぁ。
安堂勇「つまらん! 誰にでも使える武器など、選ばれし者が振るう武器ではない!」
おぉ、さすがは冒険者。
明津誠「じゃあ少し待っててくれ。今から小遣い稼ぎのクエストを始めるところだ」
安堂勇「今から?」
明津誠「この城の武器庫に眠ってる武器の手入れだよ。素材も手に入るし、鍛冶屋としちゃあ美味しいクエストなんだ」
安堂勇「…………」
その時、安堂は笑った。
安堂勇「……ほっほぉ…?」
面白いものを見つけたような、実にイヤらしい笑みだったぜ。
意気揚々と生活するゲームの世界とは裏腹に、現実世界の時刻は夜中に突入。
さすがに目が疲れてきちまったが……。
明津誠「…安堂の野郎。俺のクエストに同行する気だな」
早く寝ろと言うべきか?
だがゲーム越しに注意しても説得力がなぁ…。
だからといって、このタイミングでゲームを中断するのも……。
明津誠「…………」
閃いた。
安堂を大人しく退散させる方法があるかもしれねぇ。