短編

□今でも
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胸糞悪い酒場に仲間を残して先に出るとキラーが追いかけてきた。
「帰るのか?」
「あァ」
媚びることしか脳のない女。
そういう商売だとは分かっているがおれ好みの女はここにはいない。
いや、もう手の届くところにはいなかった。




小さい頃、見つけた真っ白はそいつはトリトリの実の能力者のくせに弱くて、ヒナのようにおれとキラーの後ろを着いてきていた。
最初は鬱陶しかった。弱いし使えないし泣き虫だし。
だけどいつの間にかそばに居ることが当たり前で、守ることに喜びを感じていた。
「名前ね、大きくなったらキッドくんとケッコンしたい!」
ヒナがぴよぴよ鳴いている程度にしか感じなかったが
「そうだな」
と口は勝手に動いていた。
おれとキラーで盗みを働いている時や喧嘩している時は住処で隠れていて、持ってきた食糧を喜んで食べてくれた。
初めて幸せを知ったのに長続きはしなかった。
名前は珍しいアルビノで、その上能力者。
能力で鳥になって大空を飛ぶ姿はなにより美しかった。
この街の奴らはそんな名前を気持ち悪がっていたがそれは単に珍しいからで、本当に綺麗だった。


たまたま街に来た天竜人に飛んでいる姿を見られ、そいつらは名前を連れていこうとした。
幼いながらも命をかけて戦った。
名前も抵抗するから殴られ、蹴られ、白い肌に真っ赤な血がこびりついている。
相手が誰だろうと名前の嫌がることをしていて、おれたちの元から奪おうとしているのが嫌で、離れるのが辛くて必死に戦ったが銃を向けられると名前が叫んだ。
「やめて!!もう、抵抗しないから…。」
「駄目だえ、おれに逆らったやつは死罪だえ!」
「なら、私もここで死ぬ!!」
落ちていた銃を拾うと名前は自分のこめかみに向けた。
天竜人は迷ったが名前を殺す訳には行かなかったのか最後におれたちを踏みつけて去っていく。
「名前!!!」
「行くな、行くんじゃねェエエエ!!」
どれだけ叫んでも名前はもう答えなかった。





天竜人のやつらは気に入れば持ち帰るし飽きれば殺す。
名前が今も生きているかなんて分からない。
あの頃もっと力があれば…。
あの島に天竜人が来なければ…。
あいつがアルビノじゃなければ、能力者じゃなければ。
そんなもし、の話はいつでもおれの頭を支配する。
もう顔もあまり思い出せなかった。
最後に泣いていたような気もするし安心したように笑っていた気もする。
おれたちはもう大人になってこの世界を壊したくて暴れている。
お前は大人になれたか?
多分ずっと泣いていただろう。
大切な人1人守れなかった過去はおれとキラーに重くのしかかっている。
どれだけ暴れても、女に媚び売られても嬉しくなどない。
想うのはただ1人だから。
今でも……

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