短編

□煙
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もくもくと立ち込める煙にもいつの間にか慣れていたしお喋りじゃない彼との無言の空間にも慣れていた。むしろ心地いいとまで思い始めていた。
付き合って一年以上経てばなんとなく暇な休日一緒にいるのは当然になっていて。新鮮味はないけど嫌いでもない。
初めは嗅ぎなれなかった葉巻の匂いだって慣れてしまえばなんてことなかった。
休日が極端に少ないスモーカーは久しぶりの休日を上半身裸でぼーっとすることに費やしているようで邪魔をしないようお昼ご飯でも作るか、と立ち上がった。
いくら休みだからといって煙と一緒に魂でも抜けたんじゃないかと思えるほど脱力しきっているこの町の大佐に苦笑しつつ、私が居なくなったことすら気付いていないだろうな、と少し寂しくも思った。
チャーハンでいいか、と確認もとらず作っていると匂いで覚醒したのかスモーカーがふらふら歩いてきた。
「お、美味そう」
「いや…、簡単なものでごめん。」
「あ?んなことねーだろ。」
口から煙を出しながら眉間にシワを寄せるスモーカーが首をかしげた。
料理はしないらしいし特にこだわりはないのかもしれないけどこんなに簡単なものを褒められると逆に申し訳なく思う。
味見をして皿に盛ると先に作ったかきたまスープと共にテーブルまで持っていく。
「いただきます。」
スモーカーは葉巻を押しつぶして消すと小さく呟いてスプーンを持った。
私も手を合わせると同じ言葉を発してひと口食べる。
何も言わずに食べ続けるスモーカーに物足りなさを感じないわけではないけどこの男が褒めまくっても気持ち悪い。褒めるほどのものでもないし食べ続けていることが答えだろう。
「あ、今日晩飯は作らなくていい」
「ん?どっか行くの?」
「おー」
「また仕事?大変だね」
返事は来なかったけどスモーカーが顔を上げて私の顔をじっと見た。
米粒でもついてるかな、と口の周りを触ったけどそんなことは無いようだ。
なんだろうともう一度スモーカーを見た時にはもう私を見ていなくて、食べ終わった食器を片付けに行くようだ。
「ごちそーさん」
シンクに置く音が聞こえるとすぐに葉巻を咥えて帰ってきたスモーカーは先程のようにソファーへどっかり座り何をするわけでもなかった。
いや、少し考え込んでいるようだ。
「ごちそうさまでした」
食べ終わると二人分の食器を洗ってスモーカーのそばへ行くがなんでこの男はど真ん中に座っているんだ。
スモーカーの家と比べると随分小さく感じる我が家は家具もそれなりに小さくて。
「詰めて」
「断る」
なんなんだこの男。
案外気まぐれなことは重々承知だがこれじゃあただのわがままじゃないか。
「じゃああっちに行ってるね」
別にソファーじゃなくてもいいからテーブルに行こうと午前中読んでいた雑誌を手に取るとそれも嫌なのか腕を掴まれた。
「…なに?」
それきり黙るんだからため息が自然と出たのは仕方ないと思う。
聞き逃してくれるほど優しい人ではなかったが。
グイッと無理やり体を引かれると雑誌を掴んでいた手は簡単に離れて気がつくとスモーカーの足の間に座らされていた。
「ここにいろ」
最初から口でいえばいいものを。
なんて不器用で無口な男なのだろう。
「ふふっ、かわいーね」
「あ?」
凄むような声も怖くないしむしろ愛おしいと思っていることにスモーカーは気付いているだろうか。
むきだしの上半身に寄りかかって上をむくと思ったより近くに葉巻があっておどろいた。
「あっぶねーだろうが。」
人の顔に煙を吐き出しながらそんなことを言ってきたがこれには慣れていない。
盛大に噎せこんだ私を鼻で笑い、もう山盛りに入っている灰皿へ葉巻を置くと涙が出てきた私の顔を無理やり自分の方へ向け咳が止まらない口へ自分のを押し付けた。
「今日の夜は外食だ。それなりの格好するんだな。」
そういうとまた自分の口に葉巻を突っ込んで黙った。
居酒屋に連れ出されることはあっても、オシャレなレストランとかは今まで1度もない。
それなりの格好ということは期待してもいいのだろうか。
新鮮味のない今もそれなりに気に入っているがやはり私も女で、好きな男と素敵なディナーでも行けたら幸せだ。
今まで口にしたことは無いけれど。
「服、選んでくる!」
「気が早ェーよ」
少し笑いながら見送るスモーカーに少し照れて寝室のクローゼットを開けた。





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冷めているように見えてお互いがお互いを大好きなカップルにしたかった…\(^o^)/

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