短編

□芽生える恋
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「んナミさぁぁあああん!!!」
目をハートにして可愛らしいケーキを持ったサンジがナミの前に跪いて皿を差し出した。私はそれを影から見ている。
「おい、そこのストーカー」
「失礼よ」
汗だくのゾロが音も立てずに近づいてきた。ストーカーだなんて失礼しちゃう。ただサンジが好きなだけ。サンジが誰を好きであろうと。
「はい、ロビンちゃん!!あれ、名前ちゃんは?名前ちゃーん!」
私を探す声が聞こえてくる。1度でも多く呼ばれたい。対応の差でサンジが誰を好きなのか一目瞭然なのに。
「あ、こんなところにいた。おいてめェクソマリモ!!こんな暗いとこで何してやがる!!」
私の近くにいたゾロが的になったのかいつも通り喧嘩を始めた。ごめんねゾロ。こんな暗いところでサンジを見てて。
「んだよアイツ」
ゾロはじゃれ合うように喧嘩をし終わると私の近くにしゃがみこんでケーキを頬張る私を見た。
「なに?」
「美味そうに食うな、とおもって」
ん、と一口差し出すとがぶり、と食べた。モグモグと咀嚼した後に甘ェ、と眉をひそめたから少しおかしかった。初めからわかっていたはずじゃないか。そう、この私の恋のように。
「んナミさぁぁああああんん!!!」
サンジの声が聞こえてきた。ナミのことが好きな、サンジの声。
ふたりが笑い合う声も聞こえてきた。
残ったケーキを一口で食べると少ししょっぱい。いつの間にか頬を伝った涙が口に入ってきたようだ。ああ、もうみっともない。分かっていたじゃないか、サンジが誰を好きか。応援したいって思ってたじゃないか。いつからこんなに好きになっていたのだろう。
「やめちまえよ、あんなラブコック。」
「辞めたいよぉ」
ゾロが涙を拭ってくれるが追いつかないほど流れ出ている。弱みを見せたくないし、迷惑をかけたくないのにいつも泣いている時にゾロがいる気がする。
「そんなナミさんも好きだぁぁあああああ!!!」
自分のしゃくり声でいつからそんな話になっていたか分からないがはっきり聞こえた声は私をいっきに絶望させた。
「う、うぅ…。もぅ、やだぁ」
サンジがオンナ好きなことも、それでもナミが一番なことも、優しいことも、知っている。だって彼は私が彼を思っていることを知っているんだ。知っていて、何も言わない。すこし、困ったように笑うだけ。面白い話題を振ってくれて、話しやすくしてくれる。優しい人なんだ。
「あ、そういえば名前ちゃん」
何かを思い出したのかサンジが近付いてくるのがわかった。この船に一人部屋なんてないからどこへ行っても誰かがいるんだ。いいことかもしれないけど、この顔を隠す場所はないらしい。焦ってゾロを見上げると面倒くさそうな顔をされた。ひどい。
コツコツ、近づいてくる音に心臓が早くなっていく。見られたく、ないのに。
「クソ剣士!?何してんだてめぇ!!」
「お楽しみだ。邪魔すんなぐるまゆ。」
なぁ、名前?と耳元で囁かれれば真っ赤になって黙るしかない。なんで私はゾロに抱きしめられているんだ。私が困っていたからだとしてもこれは、如何なものだろうか。色々勘違いされるじゃないか。
ブツブツ言いながら遠ざかる足音が聞こえるとやっと開放された。
「な、んで!」
「あ?好きだから。あんなやつやめておれにしろよ」
真面目な顔で見つめられる。端正な顔が近くにあるだけで胸が高鳴るのは仕方が無いと思いたい。
「ダメだよ、私サンジが好きだったんだし」
「もう過去になってんじゃねェか」
そう言われてやっと気付いた。今心を占めているのはゾロだ。ついさっきまでサンジでいっぱいだったのに。
「悪ぃ思いさせねェから。」
「う、うん」
「いいか?」
「うぅーん」
「はっ、決定な」
笑ったゾロがそういえばもう意見を変えることなんてできなくて、嫌だ、なんて言えなくて。
「うん」
ゾロと付き合うことになった。
新しい恋が芽生えた。

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