短編

□黄色いキク
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寂しい2年生をなんとかやり過ごすと最後の1年はシャンクス先生のクラスだった。ナミとは三年間一緒でラッキーだ。

「ナミは派手だからなぁ」
「ですよねー。」
普通に手伝いを任されて2人きりだ。話すのはクラスメイトのこと、好きな人のこと。ナミが風紀委員に捕まりまくってる話をしながらプリントを数えているとシャンクス先生が急に違う話をする。
「告白しねぇのか?」
「は!?」
なかなか素っ頓狂な声が出て恥ずかしい。少し笑ったシャンクス先生は続ける。
「だってよー、年上ならもうこの学校にいねぇだろ?」
自分たちが最高学年になれば年上はもういない。でもそれは生徒に限った話だ。なんとも答えられず曖昧に笑う。
「教えてくれよ、誰が好きなんだ?」
「......シャンクス先生。」
ハッとして口を塞ぐ。言うつもりなんて無かったのに普通に答えてしまった。最近ぼーっとしてたから気をつけていたのになんてミスだ。
名前を呼ばれたと思ったらしいシャンクス先生が首を傾げる。でもそれは私の顔を見ると一変した。あぁ、バレた。最悪だ。
「えっ、と、好きな人がか?」
うんとも違うとも言えず黙り込むとパンッ、と手を合わせた。
「わりぃ!気付かないで傷つけたよなっ!うわぁ、無神経なことしちまってた...」
「いやっ、気にしないでください!」
すごく反省しているからこっちが申し訳なくなって必死にフォローする。
「俺は教師だから、名前と付き合えねぇ。悪い」
分かっていたはずなのに涙がこみ上げてきた。見せたくなかったからプリントをその場に置くと急いで部屋を飛び出した。

「名前!?」
廊下でルフィになにやら怒っていたナミがびっくりしながら人のいないところへ連れていってくれた。
「言っちゃったぁ」
手伝い中に起きたことを泣きながら話すと真剣に聞いてくれた。
話し終わると抱きしめてくれて慰めてくれた。
「あー、もう最悪。消えたい」
「シャンクスがしつこいからよ!もうっ!無神経男が!」
昼休みも終わりそうだから必死に涙を引っ込めて教室へ帰るとナミがどこかへ行ってしまった。
授業中はずっと上の空でどんな内容だったか覚えていない。本当ならしっかり覚えてナミに教えるべきなんだろうけど。

次の授業の時には帰ってきていたナミはなんとも言えない顔をしていた。
何していたか聞いても答えてくれなかった。



あの日以降私とシャンクス先生に関わりはあまりない。寂しいけど私が悪い。普通に生徒として関わってくれることはあるけどすごく気まずいし。
だから今日は二者面談じゃなくて三者面談でよかった。自分の親を見られるのは少し恥ずかしいけど。

「お、名前か。えーっと、成績は数学が少し下がりましたがほかの教科は上がっているので総合的には問題ないですね。志望大学もB判定なのでまぁ問題ないでしょう。」
「あら、数学落ちちゃったの?この子中学の時数学ぜんっぜんダメだったのに高校に入ったら塾まで行って!頑張ってたから不思議だわ。」
必死に止めたけど最後まで言われてしまった。好きだから気にして欲しくて数学頑張っていただなんて恥ずかしすぎる。俯いてた顔を上げると口を開けてポカン、としているシャンクス先生。しばらくすると照れたような顔をしていた。
特別問題もなく、お手伝いも進んでしてくれる、と褒められて三者面談は終わった。お母さんも終始ニコニコしていて良かった。
「名前、1分時間くれ」
部屋から出ようとすると声をかけられた。お母さんと別れて椅子に戻る。
「久しぶりだな、2人きり。」
「.....はい」
「数学、俺のため?」
シャンクス先生のため、ではなく自分のためだ。スッゴク下心だけど。
「見た目を派手にするとかが苦手だから....。でも何かで目立ちたいって。」
俯いて話すとシャンクス先生の手が頭を撫でた。手つきが優しくて真っ赤になるのがわかる。
「ありがとな。嬉しいぜ!
俺あの日、ナミにすっげぇ怒られたんだよ。反省してる。ごめんな」
あの日って、ナミは授業を休んでシャンクスへ怒りに行ったのだろうか。きっとそうだ。1分たちそうだったしシャンクス先生に頭を下げて部屋から飛び出す。ナミに会いたい。お礼を言いたい。その一心で廊下を全力疾走した。


[敗れた恋]

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