短編

□愛
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初めて会った日に身体の関係を持った私たちは決して美しい出会いをしたわけじゃない。
お酒を飲んだ勢いでなんとなく、だ。
ローグタウンの大佐さんと。

彼はたまに家に来る。家に来た日に次来る日を決めていったり、今日行くと連絡が来たりする。何時に来るかも分からない彼のために豪華な食事を作って待っている私はきっと彼に依存している。

今日もやって来た。白い煙を吐き出しながら相変わらずの仏頂面で。
「いらっしゃい、スモーカー」
「あぁ。」
いつも通り短い返事を言うと2人用のテーブルへ行く。
「これまた豪華な。」
「そう?」
なんとも無い、という顔をする。依存してる、だなんてバレたらこの関係はなくなってしまう。
2人で席について食べ始める。
基本的にあまり会話がない。スモーカーが寡黙だからだ。
「そういえば最近こっちまで海賊が来たらしいね」
私の家はローグタウンの賑やかな商店街から離れていて滅多に海賊は来ない。それなのに最近頻発している。
「あぁ。気をつけろよ、お前も女だ。」
「あら、心配してくれるのね。嬉しいわ。」
ふんっ、と鼻で笑いながら食事を進めた。

「うまかった。特にこれ、好き。」
「ふふ、良かった。」
食事が終わると食器を洗ってくれる。
しなくていい、と言うのだけどここは譲ってくれなかった。私は風呂を洗いに行く。

お互いすることもなくなれば自然とベッドへ行く。彼と身体を重ねるのは全然嫌じゃない、寧ろ嬉しい。そこに愛がなくても。

情事後、彼は泊まっていくこともあるが基本は帰ってしまう。今日も帰っていった。次の予定は特になし。


次の日、食料を買いに商店街へ下りた。
ふわっと風に乗って運ばれてきた葉巻の香り。
振り向くとこちらに気付かず美女とデート中のスモーカー。他に女がいるとは思っていたけど見たくはなかった。こんなに美女がいるなら私はいらないじゃん。適当に食材を買うと家まで急いで帰った。もう涙が溢れ出そうだった。依存なんかじゃない。依存なんて言葉じゃ片付けられないほどのこの想いは...。
ーーープルプルプル
電伝虫が鳴る。
「はい。」
「俺だ、今日飯食いに行かねぇか?」
スモーカーがどこかに連れ出すなんて珍しい。ってか初めてだ。でもあの美女と行けばいいじゃん。行きたい気持ちと悲しい気持ち。
「ごめん、もうやめよう。」
この関係を終わらせることで気持ちも終わらせる。
はぁ、とため息をついたのがわかった。そのまま電話は終わった。関係も。受話器を置いてベッドへ行く。
涙が止まらなかった。


「おい、開けろ。」
泣く私の声に混じって聞こえてきた低い声。泣き始めて10分くらい経った。
「なんで?」
明らかに鼻声だけど気にしない。
「そーゆーことは会って言うべきなんじゃねぇの?」
怒っているかと思ったら悲しそうな声。
仕方なくドアを開ける。
「なんでフッた側が泣いてんだよ。」
真っ赤な目を見て呆れるスモーカー。
「なぁ、やめたいならやめる。だから最後に俺の話を聞いてくれるか?」
家に入れてあげて紅茶を作ろうとしたら止められた。
仕方が無いからテーブルへ行く。
「なんで泣いてるんだ?」
珍しく葉巻をくわえていない口が動く。
「気にしないで。スモーカーの話は?」
彼女が出来た報告?そんなのしなくていいから私の前から姿を消すだけでいいから話したくない。
「始めは一夜限りのつもりだったんだよ。それなのにダラダラ続いて、よく分からない関係になってたよな。嫌、だったか?」
首を振って答える。もちろん横にだ。私だって一夜限りのつもりだった。
「なら良かった。あー...。」
頭をガシガシとかくと葉巻に手を伸ばして、やめた。
「関係を変えないか?」
「スモーカーだって離れようとしてたんじゃん。なんで来たの?」
ぽろぽろと涙が出てくる。
「あー、違う。そっちじゃねぇ。」
「わかんない。」
そっちって何?何が言いたいかわからない。
「俺の彼女にならねぇか、って言ってんだよ!」
そっぽを向きながら半分怒鳴るように告げられた言葉。
「今日他の女といたくせに!?」
流石に我慢の限界だった。私よりよっぽど綺麗な人といたくせに。お似合いだったくせに。
「あ?あー、それであの電話か。お前可愛いな。」
何かに納得すると嬉しそうに少し笑った。よく分からずに何も答えないでいるとスモーカーが続ける。
「今日あいつが押しかけてきたんだよ。それで女の匂いがする、とか言って色々聞かれたんだよ。付き合ってないって言ったらすげー怒られた。女心をわかってないってな。
今日お前に告白する場所決めるの付き合ってもらってた。ただの同期だ。」
「え、じゃあ私勘違い...」
気付くと途端に恥ずかしくなる。
真っ赤な顔を隠そうとしていると大きな体に抱きしめられる。
「お前以外に女なんていねぇよ。
名前が好きだ。付き合ってくれねーか?」
「はい。」
違う意味で出てきた涙を拭ってくれた。
依存、なんて生温いものじゃなくて恋、なんて燃え上がるものでもないこの優しい気持ちは





(いつから?)(さぁな。でも俺は好きでもねー女のところに通いつめるほど暇じゃねぇよ。)

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