短編

□気に入らねぇ女が気になる
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俺には最近気に入らねぇ女がいる。給仕として入ってきた女だ。大体の女は俺かセニョールに擦り寄るのにあの女はどちらにも属さない。それどころかあまり表情を変えない。営業スマイルは微妙に口角を上げただけだ。
「名前ちゃん可愛いなぁ!フフフッ」
「お世辞はいらないので仕事に戻らせてください」
女なら目をハートにして喜ぶはずのセリフがこの女に一蹴された。
「フッフッフ、嫌だぜ?俺のそばにいろよ」
「他の方に頼んでください、仕事が残っているので」
俺のそばにいたいがために仕事を放り出すやつは多い。別にそれでいい。何事も滞りなく進むのなら平等、なんてどうでもいい。だが、最近気付いた。名前の仕事が異常に多いことに。ほとんど全てを請け負っている可能性もある。
「俺がそばにいてほしいのは名前だけだと言ったら?」
真面目そうな低いトーンで耳元へ唇を寄せて囁く。
「こんなに女性連れ込んでいて何言ってるんですか。」
はぁ、と呆れられる。その女はそのままプールのある庭から出ていくと仕事へ戻った。
「なにあの女ぁ、感じわるーい!」
俺のそばにいた女があいつを貶す。
「言えた立場かよ、フフフッ!次言ったらてめぇの首はないと思え。」
俺に擦り寄っていた女を突き飛ばす。
「す、すいません。」
そのまま全員振り払って名前を探しに行く。


探していた女は大量の洗濯物に囲まれていた。
「これ全部お前の仕事か?」
しゃがみこんでせっせと洗っている名前に声をかける。
「うわっ!いたんですか、驚きました。そうです、他にする方がいないので。」
明らかにトゲのある言葉だったけどそんなことより驚いた顔が見れて嬉しかった。
そうか、と言ってプールへ戻る。

「おいお前ら、洗濯しろ。」
プールにいる給仕、である女達に言う。
「えー、なんでよ?」
「いいから行ってこい。そしてそこにいる女の仕事をすべて奪え。あぁ、俺にコーヒーをいれるのだけは残せ」
椅子に座って女達を追い払う。
不思議そうな顔をした女達が出ていったのを見ると上を向いて目をつぶる。そして自分の気持ちを考える。

俺は態度を変えないあいつが気に入らない。それでもほかの人に悪く言われるのを許せねぇ。ほかの人の分まで自分から文句を言わずに頑張っているところを助けたいと思った。俺はあいつが気に入らねぇはずなのに。

「コーヒーいれましたよ。」
少しすると名前が控えめに入ってきた。
「あぁ、ご苦労。」
「どうしたんですか?彼女達。」
「国王である俺の命令だ」
さらに意味がわからない、とばかりに首を傾げる。
「フフフッ、それ可愛いな!」
俺が茶化すとすぐに眉間にシワを寄せる。そんな名前を見ながら菓子と一緒に出されたコーヒーに口をつける。
「お前がいれたのが一番うめぇ。」
「良かったです。」
淡々と返すのはいつも通りだ。
「フフフッ、俺はお前が気に入らねぇ!」
「あぁ、クビですか。」
勝手に勘違いをしてガクッと項垂れる。その表情すら珍しい。
「辞めたくねぇのか?」
案外俺のことを好きでここにいたいのかもしれねぇ、と思った。
「はい、給料がいいので。」
「フフフッ、フッフッフ!!」
はっきりと言われた言葉は俺の想像してたものとは違った。
「なんですか?」
「気に入らねぇんだよ、そーゆーところがな!フッフッフ、なのにそんな女を落としたくなる。欲しい、と知りたい、と思う。」
「はぁ」
意味がわからないのか曖昧に返される。
「フフフッ、今日から俺専用の給仕にしてやる!給料も上げるぜ?」
「今の仕事でいいですよ?」
「お前が俺に惚れるまで辞めるつもりはねーさ。」
決定だ、と言い放つとしばらくして名前が口を開いた。
「もし、もう惚れていたらどうするんですか?」
意外な発言にびっくりしてその女の顔を見ると真っ赤になって俯いていた。
女の赤面した顔なんて腐るほど見てるのに心臓が高鳴るのがわかった。
「フフフッ、俺の彼女に昇進だなァ!」
「何人もいるうちの1人とか嫌です。お断りします。」
「ってことは俺のこと好きなのか?」
「い、言ってないじゃないですか!」
俺から離れようとする名前。能力で動けなくする。
「あぁっ!ずるいです!!」
「フッフッフ、海賊なんでな。名前、女なんて全員切る。お前がいればいい。」
「気に入らないんでしょう、私のこと!」
能力をやめて自分の手で名前を抑える。後ろから抱きしめられる形になった名前はバタバタと暴れる。
「俺に惚れねぇお前、が気に食わないだけだ。俺に惚れてるお前なんて可愛すぎるぜフフフッ!なぁ、俺だけのモンになれよ。」
暴れるのをやめて大人しくなった。顔が見たくて無理やり体を自分の方へ向ける。
真っ赤な顔。俺と目を合わせようともしない。顎を持ち上げて無理やり目を合わせると潤む瞳。
「若様....」
「ドフィだ。」
「ドフィさん?」
あぁ、と答える。心臓の高鳴りが収まらない。
「他の奴にはこんな可愛い顔見せるなよ。」


(好きになってもらいたかっただけ)

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