君と過ごした1ヶ月

□完
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続きと捉えてもifと捉えても構いません。







「名無しさんー!」
エースが消えた公園で小6になった4人組へ駆け寄ると嬉しそうに手を出してきた。
「はいはい、アイスね!」
好きなのどうぞ、と出すと取り合いを始めた。
ほっといてなんとなくあの場所を見ていると泣きたくなったが子供の前では泣けないし、もう涙なら十分流したはずだ。
あれから二年経ったけどエースが帰ってくることは無い。
それどころか何度もワンピースを読み返したけどどこも変わっていなかった。
まぁ、当たり前か。
パラレルワールドの可能性もあるんだし。
「聞いてんのかよ?」
「えっ、ごめん。何?」
腕を引っ張られてようやく話しかけられていることに気付いた。
ジト目で見てくるから苦笑いすると呆れたようにため息をついてもう一度話してくれた。
「だーかーらー!俺が名無しさんと結婚してやるって言ってるんだよ!」
「んー、大きくなっていい男になったらね」
何度目かのプロポーズに笑いながらそう返すと不満そうな声が返ってきた。
それにしても結婚、だなんて言うようになっちゃって。
「エースよりいい男になればいいのか!?」
「それは、無理じゃない?」
「うるせー!いなくなったアイツよりいい男になれる!!」
エースが自分の居るべき場所に帰った、と伝えるとこの子達は泣きながら私の家を隅々まで探していた。
あれから2年、かぁ。
私は大学生になったんだしこの子達も大きくなるよなぁ。
しみじみとそんなことを思っていたら後ろから公園の砂利を踏む音が聞こえてきた。ついさっきまでこの公園には私たち以外いなかったはずだ。背筋が凍り付いて咄嗟に4人を抱きしめた。
逃がすべきだったと気がついたときには自分の体が恐怖で動かなかった。
「あ……」
子供たちの小さな声にすら驚いて一瞬腕の力を緩めた時にみんなが抜け出してしまった。
行かないで、と振り返ると違う意味で動けなくなった。
「帰ってきたのかよー!!」
「待ってたんだぜ!」
「「「「エース!」」」」
子供たちの頭を撫でながら私の方を見ているのは間違いなく会いたかった人で、目頭が熱くなって来たのがわかった。
「な、んで…」
「悪ィ。名無しさんの不安な顔の理由がやっとわかったんだ。もう手遅れだったけどな。」
手遅れ、ということは戦争に行って…。
「ごめん、ごめんなさい…。」
下を向いて呟くといつの間にか目の前にいたエースに抱きしめられた。
「名無しさんは悪くねェよ。
元々親父の言うことも聞かずに飛び出したんだ。名無しさんに止められても止まらなかっただろうしな。」
「エース…」
大きな温かい手が頭を優しく撫でてくれてさっきからずっと我慢している涙が溢れだしてしまった。
子供たちから隠すように抱きしめてくれるから気が緩んでなかなか止まらない。
「感謝してるんだ。名無しさんに会って愛、がどんなものか教えてもらったから仲間に愛されていたってわかった。ありがとう。」
感謝されるようなこと、何もしてないのに。
「ほら、見てみろよ。これからはずっと一緒にいれるな」
エースが見せてきたのは数字の書いてあった腕で、今は何も無かった。
「エース…。」
「好きだ、名無しさん。一緒にいてくれ」
「うん!」
エースがいなくなってからどこかモノクロだった世界が鮮やかになった気がした。

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