君と過ごした1ヶ月

□8月29日
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名無しさんが眠りについたのを見届けてから布団を抜け出してベランダに来たはずなのに後ろからは裸足の足音。
起きてしまったのなら悪い事をした。
ゆっくり振り向くと素肌に、掛けてきたタオルケットだけを羽織った名無しさんの姿にドキッと胸が高なった。
「どうしたの。」
聞きたいことを先に言われてしまったから仕方なく口を開くと少し笑われた。

名無しさんがいなくなる気がして、と。

「いなくなるのはエースでしょ。私はここにいるよ、ずっと。」

妙に明るい月の光に照らされた名無しさんがゆっくり近付いてきたから座るスペースをあけてあげると腰を下ろして俺がしていたように月を見上げた。
「綺麗だね。」
月を見上げるなんてこと、したことが無かった。
ましてや綺麗、だなんて。
「そうだな。」
「上弦の月、かな」
名無しさんはよく月を見るようで、満月と新月は一人でベランダに出ていた。
何が楽しいのか全くわからなかったけど今ならわかる。でも、今限定だ。
あっちの世界に帰ってから見上げたって楽しくないし綺麗でもないだろう。
「なァ、名無しさん。」
「んー?」
ゆっくりとおれのことを見た名無しさんの頭に手を添えて近付くと少し悲しそうにして目を閉じた。
少しのリップ音を残して離れるとさっきの表情を隠した名無しさんの笑顔。

だから、おれも笑った。
泣いても笑ってもあと二日しかない。
なら笑っていたい。

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