キミと航海

□23 「
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言葉は時に人を傷つけ、取り返しのつかないことになる。逆もまた然り。
人の心を救い、軽くしてくれる。ある人は私にある言葉をかけてくれた。それは"夕日を見ると寂しいのは日の出を見てないからだ"。
元から遅寝遅起きの私は日の出を見たことなんてなかった。島にいた頃はあったかもしれないが、海賊となった今好き勝手生きているわけで。
その日夕日を見て泣きそうな顔をしていた私の隣に腰掛けた彼はそのまま日の出まで一緒に外にいてくれた。お酒をがぶがぶ飲みながら楽しそうに今までの冒険を話してくれるのを聞くのが楽しくて時間なんて感じなかった。気がつくと辺りは明るくなり始めていて、水平線を見つめていると大きな太陽が顔を覗かせた。その時私は何よりも救われた。夕日が沈む時、仲間を思い出して辛かった。でもそれはまた上がってきた。仲間がついていてくれる、彼も彼の仲間もついている。そう思うと私は少し強くなれた気がした。

あなたの天使、名無しさん。」
「いつから始まってたんだよ!?ってかこれはなんだ!」
夜ご飯前、朝から考えた作文を発表したらみんなが割と真剣に聞いてくれた。終わった途端文句を言われたけど。
「タイトルの隣にあるでしょ?ちゃんと見て?あとこれは付き合う少し前の話よ。」
「世界観ぶち壊すな!!そんな事あったか?」
「セカイカンってなんですか?お酒飲みまくってたから忘れてんだろー」
「なんでもいいが飯にするぞ。」
立ち上がってたから席につく。
キッドがまだ何か言いたそうな顔をしながら見てきたが船長が先に食べないと船員は食べられない、らしい。
「はい、いただきまーす!」
そう言って食べ始めれば渋々食べ始めた。それを見て船員たちも食べ始めるんだから意外と縦社会だ。
いや、船長とその他だけど。縦でもないか。
「なかなかいい作文だったぞ」
「ありがと。三日三晩寝ずに考えた」
「息をするように嘘つくんじゃねぇ」
がっつり寝てただろーが、とジト目で見られた。でも5時間は考えた。
「お前は飯を食うように文句を言うな!」
「お前って言うな!!そして意味わからねぇよ!」
パスタを下半分の穴から吸っているキラーの肩が少し揺れている。
「ぐふっ…」
あぁ、ついにパスタがお皿に逆戻りだ。可哀想。盛大に噎せたキラーが水を飲むのを見ながら何食わぬ顔をしてキッドのハンバーグを食べた。
「てめぇ!!」
「どんまい、海賊なんだから欲しいもんは奪うんだよ。」
ムキーっと怒るキッドを見ながら自分のハンバーグも食べれば取り返せない。諦めたのか必死に息を整えているキラーの皿からハンバーグを奪おうとフォークを伸ばした。
ーーーーーグサッ
「いてぇ!!」
容赦なくフォークを突き刺したキラーは涼しい顔でハンバーグを切り分けている。
「キッド、血がつく。」
手を伸ばしたまま固まって手がピクピクと動いているキッドの手を邪魔だ、とどかした。流石に私でもそこまでしないぞ。
「怖いっす…」
キラーの手にはじかれてテーブルの隅に寄せられたキッドの手からかなりの血。
「結構深いな!?キッド喋らないし!生きてる!?」
「(笑)」
「いや(笑)じゃなくて!キッド!!!」
「あ、あぁ。」
かなりのショックらしくそれきりまた黙ってしまった。困惑しているとキラーが指を指してバカにしている。珍しい。
「(笑)」
「もうそれはいいから!キッド、手当しよ?」
「(笑)」
「笑いすぎだろ!」
やっといつも通り怒鳴ったキッドは荒々しく立ち上がると医務室まで歩いていった。追いかけて医務室に行くと船医がいなかった。飯食ってるわ。
「してあげる。」
「おれ、あの日のこと覚えてる」
「へ?」
濡らしたガーゼで傷口を優しく拭うと消毒液をとる。
「作文の。いだっ!!おれあの日、いってぇ!!それ直にかけるもんじゃねぇからな!?」
「あ、そうなの?」
するとは言ったが処置の仕方なんて知っているはずがない。ぴゅー、と飛びだす消毒液を直に付ければ取り上げられた。
「絆創膏でいい。」
意気揚々と包帯を取り出したら断られた。地味に憧れていたのに…。
大きめの絆創膏を貼り付けると完了だ。つまらん。
「ありがとな。戻るか。キラーのやつ許さねぇ」
そう言うと私の手を掴んでキラーたちのところへ戻った。


(あれ?何か言いかけてたような…)
(あ?何か言い忘れているような…)
((まあいいか))

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