短編

□サイコパスと恋した私
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あの日から何日も経つと失った足のことを思って泣くこともなくなった。
「フッフッフ、ヴァイオレットはいい女になるぞ。処女をおれが貰ってやったんだからな」
ベッドに寝ている名前に聞かせるよう話すドフラミンゴと不機嫌そうな名前。
こんなに浮気を公言してくる奴が他にいるだろうか。
「あー、はいはい。良かったわね。」
バサッと布団を被ると寝ようかと目を閉じた。最近一日の大半は寝ている気がする。
こんな体じゃ起きていてもすることがない。
だったら幸せな夢のひとつでも見ていたいのだ。
「おれの一番は名前だぜ?」
「そっかぁ、よかったあ」
独特な笑い声を響かせながら名前の髪を梳くドフラミンゴ。
「名前ちゃんよォ」
「なに?」
仕方なく布団から顔を出した名前の上に覆いかぶさり無理やり口付けた。
「んっ、はぁっ」
「名前。名前。」
名前を呼びながらキスを降らせてくるドフラミンゴが愛おしい。
「好き、好きだよ」
だからもう他の人を抱かないで、と心の中だけで叫んだ。







コンコン、と控えめのノック音に気付くと片足で跳ねながら扉に近付いた。
「誰?」
「はじめまして、ヴァイオレットです。」
ついさっきドフラミンゴが楽しそうに話していた女だ。
イライラを抑えずにドアを開けた。
そこにいたのは想像より幼い女の子だった。
「お薬、持ってきました。」
小さなお盆を持っていて、その上には薬と水。それをひったくると追い出そうとした。
だけどその時目にはいってきたのだ。
あの男がつけたであろうキスマークが。
「なんなの…。」
「キャッ!?」
飲もうと思っていた水を女にかける。
「消えて」
「しつ、れいしました。」
怯えた顔で女が出ていくと狂ったように部屋の中を探し回る。
そうしてやっとお目当てのものを見つけると体のそこらじゅうに傷をつけた。



気が済むと血が出たままだがベッドに潜る。
いつまで続くんだろう。
ただ幸せになりたかっただけなのに。

どうして間違えるんだろう。
あの子はきっと悪くないのに。
もう死んでしまいたいと心が叫ぶ。




片足でひょこひょこ跳ねながらお目当ての人物を探しているとディアマンテさんが支えてくれた。
「ありがとう」
「気にするな。ドフィか?」
「んーん、ヴァイオレットちゃん。」
意外だったのかディアマンテさんが目を開いた。
「それならそこに。」
お礼を言って離れるとヴァイオレットちゃんに近付いた。
「さっきはごめん。」
急に話しかけると驚いたのか怖いのか肩をびくつかせた。
「いえ!私こそ………」
どう言ったらいいのか迷っているようで視線を泳がせる。
「それについてもごめんね…。」
ドフラミンゴはヴァイオレットちゃんのことを私を怒らせる道具として使ったのだろう。
言いたいことを言うとまた片足でひょこひょこ跳ねる。
あー、不便だ。
義足もあるけどドフラミンゴが持っている。
「手伝ってやるよ、フフッ!」
上機嫌に現れたのはドフラミンゴだ。
私をお姫様抱っこするとそのまま私の部屋まで運んでくれた。
「ありがと」
「フッフッフ、お前は本当にいい女だぜ…」
女の香水の匂いを漂わせながら私にキスをし、服を脱がせる。
この男の性欲は底なしだな。
ほかの女を抱いたあとに私のことも抱けちゃうんだ。確かにほかの女より愛されてるし王宮に住んでいるし…。私とほかの女でははっきり線引きされている。
「これやるよ」
可愛らしくラッピングされた箱を渡された。長細いこれは、
「ネックレス」
「正解」
フッフッフ、と楽しげな男に呆れる。何個目ですか。
「持ってるしいいのに…」
「じゃあヴァイオレットにでもやるか」
「ください」
それでいい、と満足そうな男に付けてもらうと鏡の前へ移動させられた。
「似合うぜ。お前が一番綺麗だ」
鏡に写っているのはとても自分とは思いたくない姿の女だ。
どこが綺麗なんだ。
自傷行為の跡だらけで片手片足しかない、ストレスで痩せ細り、付き合い始めまではあったはずの胸は萎んだ。全くないわけではないが見せたくはない。
「綺麗だぜ…」
いくら言われても信じられない。
汚いって捨てられてもムカつくけど。
全部、全部ドフラミンゴが生み出した悲劇だから。
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