Dream:The Ring 短編U

□サフラン
1ページ/1ページ

「あ、見て下さい!」
「ん?」
少女の指さす先を見上げた。
「虹です!」
「本当だ。雨が上がったばかりだからね。」
ごくごく当たり前の自然の摂理。
「綺麗ですね。この世界も虹が出るんですね……」
女性だからなのか、持って生まれたものなのか、感性の強い彼女。
自分達にとっては当たり前にあり、見過ごされる自然の流れに気づき教えてくれる。
例えば、小鳥のさえずり、朝の匂い、風に吹かれる草木の音、野に咲く名も無い花の美しさ……
殺伐とした旅の中、誰もが彼女の一言に癒やしを受ける。
「美しいね。」
「はい!」
輝かんばかりに微笑む彼女は本当に眩しくて美しい。


或る日の夜。
彼女はみんなの輪から少し離れて夜空を見上げていた。
今夜は新月で、星がいつもより多く見えた。
「一人じゃ危ないよ。」
そう言って彼女に寄り添った。
彼女は夜空を見上げたまま言った。
「この宇宙には、沢山の星があって、沢山の銀河があって、沢山の惑星があるんです。この星のどこかに、私の星があるのか、はたまた、この星空さえも別物なのか……」
そう言う彼女の横顔は、昼間には見せない物憂げな表情だった。
突然、天女のように異世界から舞い降りてきた彼女は、天に恋い焦がれているのだろうか。
もし、羽衣を見つけたら、再び異世界に舞い戻ってしまうのだろうか。
果たして、こんなにも愛らしい彼女を、自分は手放す事が出来るのだろうか。
特別美人な訳でも、能力がある訳でもない。
普通の人の娘。
だが、彼女には人を引きつける何かがある。
それは輝かんばかりの笑みと、人が良すぎるくらいの優しさ。
そっと、彼女の手を握れば、彼女は驚いて自分を見上げてきた。
「宇宙の広さは僕らには計り知れない。故郷を失った君の悲しさ、寂しさも察するに余りある。だけど、君の世界でもこの世界でも、自然の美しさは変わらない。人の温もりも変わらない。愛の形も変わらない。君は僕たちに希望を与えてくれる。そんな君を愛してる。」
みるみる、彼女の頬が朱く染まった。
「だから、ずっと、僕の隣で笑っていてくれないかな?」
そう言って優しく触れるだけの口付けを落とした。


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ