Dream:The Ring 短編U

□オトギリソウ
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寝台で自分にのしかかられ、両手首を腰紐で寝台に縛り付けられ恐怖に怯えながらも睨み付けて威嚇してくる彼女。
「この様な無粋な真似が許されるとお思いですか?」
怯えながらも自分に向けてくる強い眼差しに、なんとも言えない征服欲と加虐心に駆り立てられる。
『ああ、たまらない……』
「姫は、快楽に身を委ねるのはお嫌いですか?」
優しく彼女の頬を撫でれば、瞬時に頬が朱く染まった。
「そ、そのようなことは、愛し合った者たちがすることですわ。」
純情な物言いに、思わず笑いがこぼれた。
「な、何がおかしいのです!?」
「いえ、悪気はないのですよ。ただ、一応、ご存知なのだなと思いまして。」
彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「やはり、あなた方シンダールやシルヴァンはおめでたいエルフだ。」
幼さの残る彼女の顔をくっと上向かせた。
「すみませんが、我々はあなた方のようにロマンティストではないのですよ。愛よりも、“裂け谷の領主の息子”に相応しい女性なら、誰でもいいのです。」
「なぜ、私ですの?」
そっと、彼女の身体に手を滑らせた。
それだけで彼女はフルリと震えた。
「あなたはこの国の姫です。若く、さすがは王の血を引かれておられる。見た目も気高さも問題ない。幼さが少し気になりますが……まあ、おいおい……ね。」
そう言うと、ねっとりと彼女の柔らかい唇に口付けた。
甘い吐息が彼女の口からこぼれ落ちた。
「それに、あなた方にとっても悪い話ではないでしょう。この中つ国であなたに釣り合う男は、この私かエルロヒアぐらいのものですから。」
「愛の無い婚姻なんて、出来なくてもかまいません。」
「あなたは、姫としての自覚が足りないようですね。指輪の守護を受けないこの森は、滅びつつある。サウロンの前に、この国は滅びますよ。」
「お父様がそんなことさせませんわ。」
「現実問題、闇の森の兵力だけでこの森は守れないでしょう。あなたが私の所に嫁ぐ事で、闇の森は裂け谷の援助を受けられます。」
「うそ。もしもの時は、この森を盾に、自国の領土を荒らすことなく、モルドールもしくはドル・グルドゥアを攻め落とすつもりなのでは?」
ほうと感嘆の溜め息を漏らした。
「ただの幼い姫ではありませんでしたか。ますます、そそられる。」
そう言うと、彼女の首筋をねっとりと舐め挙げた。
「ん、はぁっ……そもそも、お父様は決してノルドールに援助など求めませんわ。」
「そして、最後の同盟の二の舞となる。いや、それ以上の損害を被るでしょう。」
彼女は否定できない事が悔しいようだった。
自分の言っていることは現実的だ。
彼女の耳元で囁いた。
「この国の為ですよ。それに、私はあなたのことは嫌いじゃない。むしろ、好感を持っています。」
耳朶に口付け、首元に唇を滑らせた。
くすぐったいのか、彼女は甘い声をもらしながら身体をよじった。
「ノルドールの王ギル=ガラドの後を継ぐ裂け谷の領主の息子の妻が、愚かな女性では困りますから。」
「あなたは……それで幸せなのですか?」
「言ったでしょ?我々に愛など関係ない。大事なのは、相応しいかどうかだと。」
「虚しくはありませんの?」
憐れな者でも見るような彼女の視線が自分を責める。
「あなたは、本当に夢見る乙女なのだね。半エルフの血を引く者としての宿命ですよ。父はエルフであることを望んだ。そして、中つ国のエルフを束ねる者となった。それに相応しい息子でなければ……」
「エルロンド様が、そう望まれるのですか?」
「父は何も言わないよ。だが、周りは違う……」
彼女は自分の事のように顔をしかめた。
「あなたの尊厳は、どこにあるのです?」
愛することを、愛されることを知らない、こんな自分に犯されようとしているのに、意地らしい。
「君たちシンダールが羨ましいよ。何物にも縛られず、自由に生きる君たちが。」
彼女の頬に手を滑らせた。
「ますます、欲しくなった。」
そう言って、彼女の唇をぺろりとなめた。
「ん、やっ!どうして……どうして、愛してもいない女性を抱けるのですか?」
悲しげな瞳に涙がたまっていた。
胸が酷く締め付けられた。
それは、無理矢理自由を奪う罪悪感の為か。
「さあ……その内、あなたの方から私を求めるようになりますよ。いや、違うな……」
自分が、彼女に愛されたいのだ。
初めて彼女を目にしたとき、自由に森を闊歩し舞い踊る美しさに、強い意志を宿したその瞳に、自分は囚われた。
「私が、あなたを欲しているんだ。」
彼女の耳たぶを甘噛みし、舐め挙げた。
「あなたの側なら、私は私でいられる気がする。」
細く白い項に唇を滑らせ、所有印をつけていった。

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