cinematic《長編集》
□いつでも恋は突然に
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緑side
だるい歴史の講義も終わって、やっと家に帰れる午後3時。
校舎から出ると既に服は汗でしめり始めてて、蒸し暑さに照りつける太陽を睨みつけた。
スマホ開けて、今日のスケジュールを確認する。
「よし、」
バイトもないし、コンビに行ってカレーと揚げ物とポテチとコーラ買って帰った。
1階について、自分の部屋番を入力する。
ほんまは別にオートロックじゃなくたって高いもんなん持ってへんのやけど、高校の時に元カノからストーカーされたことがあって、オカンにどうしてもってつけさせられてん。
まあ、用心に越したことはないんやけど。
自動ドアが開いて、3階の自分の部屋がある階まで階段で上がったら、目の前に人が倒れていた。
………
人!?
「なんで?!」
見たこともないド派手な格好したピエロみたいな奴が、階段の上りはなで伸びてる。
踏まんように横にずれて、頭の横あたりにしゃがみ込んで、もじゃもじゃの金髪をちょこっとずらすと、なかなか美形のお兄ちゃん。
息が荒いとか止まってるわけではなさそうで、どうやらちゃんと生きてはいるらしい。
「ちょっと、ちょ、大丈夫ですか」
体を揺するとそいつは、うむぅ〜…と眉間にしわ寄せて、むにゃむにゃ言ってまた寝息を立て始めた。
「あかんて!こんな所で寝てたら死んでまうで!」
朝はおらんかったから、いつからかは分からへんけど、ずっとここで寝てたんかな?なんちゅうやつや!
何回も声かけながら頬をぺしぺしして、なんとか目を開けさせる。
2、3回目をぎゅって瞬かせて、やっと目が覚めたのか、俺を見るなり
「あぁ!神様や!救世主様やぁ〜!」
と言って俺の首に抱きついて泣き始めた。
「ちょっと待ってちょっと待って、
俺、神ちゃうから!
ええ、なんで泣くねん、どうしたん兄ちゃん、何があったん」
ぐすんぐすんしながらなんとか喋ろうとするそいつの背中をさすって、息を落ち着かせる。ちょっと落ち着いたのか、するっと自分で座り直してそいつは鼻水混じりに喋り出した。
「じ づは、ぎょう がら、ごご にひっごしてぎてんげど、か ぎを家に…っだらな゛がにはいれんぐでぇ〜泣
(実は今日からここに引っ越してきてんけど、鍵を家に…そしたら中に入れんくて泣)」
なんとか話してくれたはいいけど、そこまで言ってまた泣き始める。
鍵開かへんなったなら、大家に連絡いれて、マスターで開けてもらえば良かったんちゃうん?
と思ったけどああ、よく見たらズボンにもポッケらしいもんはないし、辺り見ても携帯らしきものは見当たらない。
念のために「スマホは?」と聞いたら、案の定家の中らしい。
わんわん泣きじゃくるそいつをほっとくわけにも行かへんし、冷めきったカレーと温まったコーラの生存確認もしたい。
「うーん、、
分かった、とりあえずうちに上がり」
全くの見ず知らずではあるけど、なんやただのアホそうやし、人助けやと思って、大家呼ぶ間だけ、家にあげることにした。
「ふぇ?ほん゛まに゛?」
潤んだ目で見上げるそいつは、よく見ると可愛い顔してて、一歩間違ったら全然女で通りそうやって。
なんやちょっとドキッとしたやん。
「こんな所で嘘ついてどうするんw」
「うわぁ〜!ほんまに神様やぁ!
ありがとうっ」
そう言って何度もありがとうと繰り返し頭を下げるそいつの頭くしゃくしゃって撫でて立ち上がり、そいつの手も引いて立たせると、階段からすぐの俺んちに入った。