第1章・博麗の巫女と大国巫女

□紫・宇女、梅郷を語る。
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〜紫視点〜

宇女は元々、大和国という国に住んでいた普通の民だったの。

母親を早くに亡くし、武芸に秀でていた父親とふたり暮らしだった。

十歳になろうかという頃の梅の時期に、一人の二つほど年上の少年と出会ったのよ。それが、物部守屋という後に歴史に名を残す人物だったのよ。

二人は次第に惹かれあったわ。

でも、ちょうど同じ頃、当時の大国巫女はその命が尽きようとしていた。後継ぎの少女を見つけなければならなかった。強い霊力と『宿命』を背負った少女をね...。

そして、雷雨の夜、大国巫女は、宇女の家に雷を落とした。家は火事で全焼。たったひとりの肉親である、宇女の父親も死んだわ。

でもそれはあくまで人々の記憶から宇女という存在を消すためのフェイク。
宇女は、大国巫女の元に引き取られたわ。

〜紫視点終わり〜

「ここからは私が話すわ」
そこで一呼吸入れた紫に代わって、宇女が話し出した。

〜宇女視点〜

先代の大国さまに引き取られた私は、過去の記憶を消された状態で、目を覚ましたの。

見慣れない見知らぬ部屋で目覚めたあの時の虚しさは、今でも忘れられないわ。そして、私は一人だった。

大国さまに仕える巫女達からは、『ひめさま』と呼ばれていたけれど、その言葉の裏には、平民から後継者に選ばれた私への不信感が確かにあったわ。

私は、何をするわけでもなく、しばらく部屋に篭ってたの。でも、ある日、勇気を出して部屋を出てみた。すると、そこで巫女達が私の陰口を言っているのを目撃したわ。

(私なんて...私なんて...ここにいる意味なんか無いのに...私に何が出来るの?力も無い私が...)

私は初めて泣きじゃくったわ。悔しくて、自分が背負った『最初の宿命』に怒りが込み上げてきた。

でも...

小都だけは、偽りの無い笑顔で私に近づいてくれたのよ。
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