成り代わり部屋

□短編集
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この手に馴染む木刀に、あぁ、やはり好きだと思う


「奴良、お前は強い。強いが、お前のその太刀筋は人を喰らおうとする獣のモノだ


今はその様な振りをする者はいない」


母に請うて剣道の道場、通い出して数日で告げられた師範代の言葉に、それはそうだ。と内心頷いた。


「けれど師範、何時か大切な者を守れなくてはどうしますか


大切な者、信念、それは己に力がなければ守れませぬ」


俺の台詞をどう取ったか、師範代は終了後に残れと言った




「奴良、お前は何者だ?そのような思考、7歳の子供が持つモノではない」


「そう言う貴方こそ。貴方からは悪いモノではないにしても、妖の気配が致します」


「・・・」


「・・・」


「はぁ。奴良という名にまさかと思うたがお前はぬらりひょんの子か孫だな」


「一応。」


「抜きんでた力を持ってるな。


俺は、大切なモンを守れず、彷徨い続ける怨念みてぇなもんだ」


「おや。奇遇ですね。俺もですよ。


信念のために戦い、最後は散ったはずの魂が、何故か輪廻を巡りこうして再び生を手にしている。」


「ほう?生まれは時代(いつ)だ?」


「江戸時代の末期、ですね」


「ナルホド。おれぁお前の先輩だよ。平安の末期を生きた。」


「昔の名を聞いても?」


「武蔵坊弁慶。お前は?」


「驚きましたね・・・俺は、近藤勇です」


「此方こそ驚いたぞ。近藤勇といえば新撰組だったか?の、局長じゃないか」


「それは此方の台詞ですよ。武蔵坊弁慶と言えばかの義経公に仕えた臣の名ではないですか」


「今でこそ英雄扱いだが、俺は九朗様を守れなかった


故に鬼となったのだ」


「私もそうですね。己の信念と殿の為に立ち上がったのに、裏切り者、の烙印を押され、最後には捕まり・・・よく考えれば未練たらたらですねぇ」


「のほほんとした奴だ。」


「あはは。


ねぇ弁慶殿?私の百鬼夜行になりませぬか?


私はどうやら奴良組を何れ率いねばならぬらしい。仲間は多い方が良い。」


「・・・・・(此奴は)」


差し出された掌は遠い記憶を思い起こす


「御意に


この命、貴方に」


「決断早いですね。本来なら兄弟の杯を交わすところなんですが・・・生憎この身体は未だ幼い。何れで構わないでしょうか?」


「あぁ。勿論だ。


何故だろうな。貴方はどこか九朗様に似ておいでだ」
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