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□風邪
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目の前の寝台で、顔を赤くしてこちらを見るクロスに信幸は溜め息を零した。
「鬼の攪乱とはこの事か」
「ゲホッ…るせぇ」
「喉をやられたか。全く、グレイ越しに声を聞いた時より悪化しているな。」
咳き込むクロスに日頃の生活が祟ったのだと苦笑いする。
寝台脇の椅子に座り、リンゴの皮をスルスルと剥く。
ここに来る前に買って正解じゃった。
目をきつく閉じ、荒い息をして顔を朱に染める姿にこのような姿を見れば、かの弟子の少年は驚くだろう。
……それが見られたくないから、同じ町にいるのに別々に泊まっているのかと納得し、自己完結させた。
どうせ少年には、愛人の所にいるとでも言っているのだろう。
全く子供っぽい男だ。
「ナ゛ニ考えてやがる」
「いやなに、大した事ではないよ。
それよりリンゴをすり下ろした。食うか」
「……あ゛ぁ」
食べさせろと、目でモノを言うその姿に苦笑して、昔同じような事をしたな…と懐かしく思いながらリンゴを口に入れていく。
さながら親鳥に餌を与えられている雛のようだと内心笑いながら。