MURCIELAGO〜いつか見た夢〜
□episode・01
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闇の中でも私の家系はとても古い血筋である。
暗鶚の血統であった父は同じく暗鶚の遠縁であった母と結婚した。
母の家系も優秀な血統であった事は確かだったが、周囲の誰もが二人の婚姻に待ったを掛けた。
何故なら、二人は“活人拳”と“殺人拳”と言う相容れない志を抱いて居たから。
それでも二人は結婚し、そして私が生まれた。
恋愛結婚だったのだと聞いている。
尤も、私が幼い頃に二人共儚くなってしまったが。
残された私は、活人拳と殺人拳の何方も選び切る事が出来無いまま、闇の中を生きている。
【MURCIELAGO〜いつか見た夢〜】
人を殺す事も活かす事も選び切れなかった私が取った手段は“情報戦”だった。
避けられる戦いは回避する、避けられない戦いを生まない、殺さねばならない状況を徹底的に排除する、と言う方法で私は闇の中を生きる。
一人であれば中立の立場を保てたかもしれないが、父が闇の重鎮であった私の周囲は生まれた時から闇人に囲まれていて、気付けば部下を連れる立場になっていた。
父の家系が闇の中でも祭事を取り仕切る家系だった事もあるだろう。
伝統と継承を重んじる闇人達は我が家の血が途絶える事を重く捉え、幼い私にも高い地位を用意した。
まだ幼かった私をお嬢様、と呼び慕ってくれる部下達を置いて行く事が出来ないまま、私は危うい立場を生きていた。
それでも、私の周囲には私の葛藤を理解してくれる人達がいて、私はいつか選ばねばならない日を恐れながらもそれなりの平穏の中にあった。
そんなある日の事だった。
部下の一人が他の闇人に私の事を侮辱された、と怒り心頭の様子で出て行った、と他の部下から聞いた私は驚きながら事情を聞く。
「どういう事?」
「その、お嬢様の事を、、、蝙蝠のようだ、と揶揄している者が居ると、、、」
「、、、嗚呼、その事なの」
思わず嘆息気味になる。
幼いとはいえ、武人でありながら自分の生き方を決められて居ない私の事を「ムルシエラゴ」と呼ぶ人間は多い。
スペイン語で蝙蝠を意味するその言葉は私にとっては慣れた文句だった。
部下達は幼い私に仕えてくれているとても優しい者ばかりだが、その分、私が侮辱されるような事態には怒りを顕にする事が多い。