蒼穹を仰ぎて

□世迷えや世迷え
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ーーー曖昧に笑む彼女は何処か不安定に見えた。


(、、、期待し過ぎたかな?)


昔、彼女を見た事がある。

親父が珍しく帰って来た時に連れて来た女。

当時は少し年上に見えたが、実際はそう変わらないらしい。


以前見た時、彼女から感じたのは絶対的な自信だった。


誰にも負けない、誰にも踏み込ませない、そんな強さ。


狂気的なそれに酷く惹かれた。


その時に名前を聞いたら、ニヤリと笑みながら答えた。


『神無ですよ』


短い言葉だった。

他に言葉を交わした事はない。

彼女自身、直ぐに別の仕事があると去って行った。

あの時は親父の次に強いのは彼女なのではないかと思っていた。


実際、彼女の噂は良く耳にしていた。

青鳥の首領としての噂。

情報屋と言う話だったが、噂は情報屋と言うよりもマフィアのようだった。

一般市民に手を出したら首領自ら手を下す、とか。

腐った政府の要人を亡き者にしたとか。

むしろ情報屋と言うのがデマだと思っていたが、実際に情報屋らしい。


(あー、でも解るかもなぁ)


もしかしたら、あの頃よりも丸くなってしまったのかもしれない。


牙の剥き方を忘れた獣のように。


女らしい華奢な腕も、今は少しだけ残念に思えた。


(、、、でも、強い女ではあるよね)


もしも、彼女が子供を産めば、それは夜兎の血を持つ子になる。

その子はきっと強い。


あの日の彼女のように。
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