蒼穹を仰ぎて
□世迷えや世迷え
1ページ/3ページ
ーーー曖昧に笑む彼女は何処か不安定に見えた。
(、、、期待し過ぎたかな?)
昔、彼女を見た事がある。
親父が珍しく帰って来た時に連れて来た女。
当時は少し年上に見えたが、実際はそう変わらないらしい。
以前見た時、彼女から感じたのは絶対的な自信だった。
誰にも負けない、誰にも踏み込ませない、そんな強さ。
狂気的なそれに酷く惹かれた。
その時に名前を聞いたら、ニヤリと笑みながら答えた。
『神無ですよ』
短い言葉だった。
他に言葉を交わした事はない。
彼女自身、直ぐに別の仕事があると去って行った。
あの時は親父の次に強いのは彼女なのではないかと思っていた。
実際、彼女の噂は良く耳にしていた。
青鳥の首領としての噂。
情報屋と言う話だったが、噂は情報屋と言うよりもマフィアのようだった。
一般市民に手を出したら首領自ら手を下す、とか。
腐った政府の要人を亡き者にしたとか。
むしろ情報屋と言うのがデマだと思っていたが、実際に情報屋らしい。
(あー、でも解るかもなぁ)
もしかしたら、あの頃よりも丸くなってしまったのかもしれない。
牙の剥き方を忘れた獣のように。
女らしい華奢な腕も、今は少しだけ残念に思えた。
(、、、でも、強い女ではあるよね)
もしも、彼女が子供を産めば、それは夜兎の血を持つ子になる。
その子はきっと強い。
あの日の彼女のように。