蒼穹を仰ぎて
□狂えや狂え
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その日、彼女は大掛かりな仕事の仕上げの為にとある海賊船に向かっていた。
「お久しぶりです、阿呆提督」
「おお、久しぶりだな、青鳥の姫よ」
大仰な出迎えににこやかに応える。
心の中では悪戯に笑みながら。
(馬鹿な男。名前通り)
これから、彼女が何をするか解らないのだろうか。
いいや、解って歓待しているのならば少しは見所のある阿呆なのだろう。
(そんな気配は無さそうだけど)
残念だ、と神無は思う。
宇宙海賊春雨、と言えば辺境の星々にすら恐れられるような悪人共が集まっているのに。
少しだけ面白い奴がいないか、と期待した自分が虚しくなった。
人知れず溜め息を吐きかけた時だった。
その男が現れたのは。
【狂えや狂え】
「あれ?アホ、、、阿呆提督。珍しいですね、その女、夜兎ですか?」
響いた声は喜色満面、とでも言うべきか。
恐ろしいまでに無邪気な声。
声を発した人物から放たれる殺気は、神無の体を射竦めた。
(、、、第七師団の神威か)
「神威か、、、此方は青鳥の姫だ。お前も知っているだろう」
「あぁ!あの、有名な海賊ですかぁ」
「団長、海賊じゃねぇ。情報屋の青い鳥だ」
「あー、結構強い奴多そうだよね、彼処。でもそっか、武器持ってるから海賊かと思ったんだけど、違うみたいだ」
飄々と笑顔を浮かべる優男。
だが、血臭が鼻に付くような気がした。
手にした傘は自分の物と同様に仕込みなのだだろう、随分と厳つい形だ。
同胞だと言う事は既に知っている。
彼も、この傘を見て気が付いたのだろう。