蒼穹を仰ぎて

□形無き想い
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【形無き想い】



―――変わったお嬢様だ、と言うのが第一印象である。

その印象は今も変わらないが、今は何となく雰囲気が柔らかい。

尤も、以前も部下に接する時はこんな風だったが。

山崎が茶を入れに走っていったので取り敢えず人目に付かなそうな場所を選んで屯所内に案内する。

お嬢様は何処か落ち着かない様子で俺の後を付いて来る。

やはり不安なのだろう。

だが、その様子を見て思い出したのは先日、万事屋の腕の中で安心しきって体を預けていた姿で。


(、、、あの野郎は警戒しねぇで、俺は警戒すんのかよ)


何となく納得行かない。

加虐心がじわじわと湧き出すのを自分でも止められない。

取り敢えず自室まで案内して、彼女を屋内に入れる。

日光から遠ざけて安堵する過保護な自分と加虐心を抑えられない自分がせめぎ合っているような気がした。


「お嬢様。怪我はどうだ?」

「えぇ、だいぶ良くなって来ました。ご心配をおかけしまして、、、」


座るように促せば彼女は素直に座って、両手を添えてペコリと頭を下げる。

視線が外れた隙にお嬢様に近付く。

ふと距離に気付いた彼女が警戒して離れる前にその腕を取った。


「どこを怪我したんだったか」

「え、と、、、く、首の後ろと、、、」

「首の後ろか」


生憎と薄衣で見えない其処。

だが、屋内に入ってしまえば薄衣を着ている意味はなく。

するりとそれを剥ぎ取ると彼女は目を瞬かせた。


「包帯はまだ取れねぇな」

「え、えぇ。その、まだ傷が残っているので、、、」

「他は?」

「二の腕に裂傷が、、、」

「二の腕、、、どっちだ?利き手か?」


問えば「いえ」と短い否定。

利き手の逆の腕を差し出すように持ち上げて「包帯だらけなんですけど」と笑う彼女。

同時に袖口から包帯の白が見えて彼女が腕を上げたのは包帯を見せる為だと気付く。

手首まで巻かれた包帯は痛々しい。
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