魑魅魍魎の主
□掃除の素早さは重要
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今まさに虱潰しに探りを入れているものの、これではいつ解決するかわからない。
「これと言って、めぼしい目撃情報は無いのか⋯。」
「はい⋯。夜のパトロール人数を増やしていますが、被害は増えるばかりです。」
「これ以上みんなに負担は掛けられないし、早々に解決しないと面倒な事になる。」
「マスコミもはやし立てていますからね⋯。しかし妖怪が相手では人間の警察の場合、限界があるでしょう。」
「んー。」
とはいえ、この手の事は情報がなければ動くことは難しい。唯一あるとすれば被害者の共通点と、その現場周辺にはありえない程、泥で汚されているという事。
それを妖怪の能力だと目星を付けてはいるものの、それらしい妖怪はない。
「これだけ探しても見つからないとなると、相手は現代で生まれた新しい妖怪の可能性がありますね。」
「しかし姿が見えないとなると⋯、探りようもありませんな。」
「姿が見えない⋯ね。」
「姿が見えなくなる能力は⋯リクオ様の力と近しいものがありますが⋯、そもそも妖気を全く感じないとはありえない。」
「彩菜様は、この事をご存知で?」
「こっちの事はなにも話してないからなにも知らないけど、ニュースでは見てるから知ってると思うよ。護衛も黒羽丸の他に数人付けたのすぐにバレちゃったし。」
「気配に聡いところは敵いませんな⋯。」
「僕も見破られちゃうからね。」
こうも心配するのは、彩菜自身も長い黒髪だからである。その事に関して本人の口からなにか聞いた事は無かったが、それでも、不安に思っていることに変わりはないだろう。
彩菜がいくら武道を極め気配と空気の変化に敏感だとしても、相手が妖怪であれば太刀打ちが難しい。 そこでふと、とある事に思い当たる。
「⋯もしかして、人間の仕業なのかな。」
「「「はい?」」」
リクオのその言葉で、事態が急変する。
奴良組でそんな会議をしているとは全く知らない彩菜は、自宅への道を全力で走り抜けていた。理由は急に降り出した雨が原因である。
「洗濯物っ⋯!」
今日の朝は晴れていたため、油断をしていたのだ。まさか夕方頃からこんな土砂降りになるとは予想外である。
あのストーカーの男はとっくに撒いてあるため、背中を気にしていなかったのだが、いくつかの気配がある。大方リクオから護衛を頼まれた面々であるだろうが、申し訳ない。
リクオと付き合っているというだけで、ここまでしてもらう必要は無いと思っている。最近の浮世絵町は確かに物騒であるものの、事件が発生する時間帯には常に家にいるようにしている。そのため、そこまで心配する事は無いはずだ。
「ぎっ、ギリギリセーフ⋯!」
家に着き、階段を駆け上がった彩菜は乱れた息をそのままに洗濯物を回収し、濡れていないかを確認しつつ畳んでいく。
湿ってしまった物は諦めて籠の中へ戻し、明日洗濯をし直すしかない。
「えーっと。」
壁に掛けてあるホワイトボードを確認する。そこには家族の予定が書いてあり、それを見れば用意する食事の量も変化するのだが。
「って⋯私だけ。」
父は出張、母はママ友会、兄は大学の飲み会と記されてあり、冷蔵庫の中身を見てみれば母が作っていてくれていたのだろうカレーがあった。
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