魑魅魍魎の主
□壁に耳あり障子に目あり、隠し事はするものではない
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『ーーー、初めまして!今回は正体不明の歌手、彩桜さんにお越しいただました!今日は本当にありがとうございます!』
『いえ、こちらこそありがとうございます。普段こういったことを話す機会が中々無いので、ありがたいです。』
(お互いに一礼)
『緊張してますか?』
『はい、少しだけ。』
『ふふ、リラックスしていただいて大丈夫ですよ!それではさっそく行きしょうか!』
芸名、彩桜〖イロザクラ〗
普段テレビ出演やコンサートなど公の場に出る際は、必ずなにか動物の耳が付いたフードを深く被り顔を隠していて、年齢はおおよそ十代後半から二十代前半。
作詞作曲は全て自身で行い、そのほとんどが恋愛ソングである。
性別は女、フードから覗く髪は漆黒の長髪で全く染められていない。
身長は一五〇cm前後と小柄だが、明らかに高いヒールで背丈を誤魔化している。
素性隠しは徹底的に行われていて、彩桜に関する出回っている情報と言えばこの程度のものしかない。
『デビューから僅か数年の彩桜さんですが、既に爆発的な人気となっていますよね?なにか賞をとりたいとは思わないのですか?』
『そうですね…私は歌が大好きで、書いたり歌ったりしているので、そういうことはあまり。それにそういった場所は正装で出席しなければいけないので…少し苦手なんです。』
『受賞よりも顔を出すことが嫌なんですね(笑)少しもったいないような気もするのですが…事務所の方はなにも言わないのですか?』
『顔を出さないことがデビューの条件だったので、それに顔を出さない方がワクワクするじゃないですか。』
『それでは今後顔を出すことはないんですかね?』
『今のところは予定してないです。もし出すとするなら…引退時に。』
『残念ですが…、次の質問に移らさせていただきますね!彩桜さんの場合、曲は全て自作ですが、制作についてお聞かせ願いたいです。こう、頭に降ってくるものなんですか?』
『私は浮かんでこれだ!と思う物もありますし、恋愛モノだと友人や知り合いの話を聞いて書いたりします。幸い人の輪は広いのでいつも参考に。』
『大変な作業の中で作られているのですね。』
『曲によってまちまちですよ、《さくらおと》は二時間も掛からずにできましたし、それでも、比較的自分の体験を元にした曲はすんなり上手くいきます。』
『では恋愛ソングが数多い中で一つだけ仲間に宛てたような曲がありましたよね?なにか意図があるんですか?』
『意図というか、ちょうどその頃バタバタしていまして、“仲間”について色々と考えさせられたんです。私が歌っていることを知らない人もいますし、それでも大切な人なので、一人じゃないことに気付いてほしくて。』
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