灰色の祓魔師
□将来の夢は、お花屋さんになる事です
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長い長い聖戦、もとい戦争が終わって数ヶ月。
黒の教団は戦後の後始末、後処理に追われている。いまだに存在を確認されるAKUMAの殲滅のため、エクソシストを世界各国に派遣していた。
彩菜もそのエクソシストの一人である。お陰でここ最近、本部の滞在時間が任務へと出ている時間と比べて著しく短い。
それでも、終わりが見えているだけでも、マシだと思わなければならない。
この黒の教団もこのままいけば五年以内に解体されるのだと風の噂で聞いた。こんな物騒な組織が無くとも成り立つ世界に、どれだけの人間が焦がれ、願い、望んだだろう。
この戦争の終結は、本当に多くの犠牲の上に成り立っている。彼等がいなければ、きっと今生きていられる人間はもっと少なかったはずだ。
「あーやーなー!」
「リナリー!」
「お疲れ様!二週間ぶりくらいかしら?」
「うん!元気だった?怪我してない?」
「勿論!元気!怪我は少しだけかな?」
その答えに、彩菜の視線はリナリーの頬に映る。痛々しくガーゼが貼られていてその向こうは見えないが、怪我をしている事は明らかだった。
「女の子が、顔に傷作っちゃ⋯駄目。」
「今更よ?」
「そうかもしれないけど⋯痕が残ったら、コムイが面倒でしょ?」
「⋯そうね。」
一度、あの方舟の一件以降、再会したコムイの号泣っぷりは凄かった。それはもうドン引く程に。
周りはコムイの事をシスコンだと言っているが、リナリーもそれなりのブラコンだと思う。姉弟のいない彩菜にとって、『家族』は憧れだ。
彩菜がリナリーの頬に触れ、小さく「‹痛いの痛いの飛んで行け。›」と唱えれば、その傷跡はあっという間に消えていく。
リナリーはガーゼを外し、肩を竦めながらお礼を言うと、ポケットの中から飴玉を出し彩菜に握らせた。好物の苺味である。
「痛み、全然無くなっちゃった。」
「それが、私の力だからねー。」
久しぶりの親友との会話を弾ませながら、長い回廊を進む。ひんやりとした空気がどこか心地いい。
ーーー戦争が終わってから様々な事が変わった。戦う必要が無くなり、戦う意味も無くした己は、これからの身の振り方を考えなければならない。
『戦争がもしも終わったら。』そんなことは今まで思い描いたことはあっても、具体的にしっかりと考えた事は無かった。だが、今はそれでもいいだろう。幸い時間はたくさんあるのだ。
「リナリー、私そろそろコムイのところに行かなきゃ。」
「え?これから任務?」
「うん。場所はまだ聞いてないけど、温かくしてって言われたから寒い場所かな?」
「神田はそろそろ任務から戻ってくるのに。兄さんも仕方ないわね。」
「まぁ、お仕事だし⋯それに今は恋愛事に振り回される時じゃないから。」
これから書庫に行くであろうリナリーと別れ、彩菜はコムイのいる司令室へ急ぐ。自分も早く食事を取りたい。
「コムイー!」
「彩菜ちゃん!待ってたよ!」
座って座ってとソファー に急かされ、リーバーに渡されたマグカップを受け取り中のココアを飲み込む。
ココアに頬を緩めながら、渡された資料の文字を目で追っていく。
「えーっと、場所はロシア?」
「そう。それも、かなり東寄りの街だね。」
「これじゃあ、森箱舟使っても、戻って来れるのは一週間以上はかかりそうだね。」
「AKUMAの数は確認されているだけで十五体以上。LEVEL3も確認されてる。残らず殲滅してきてほしい。」
「はーい、了解しました!」
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