魑魅魍魎の主

□忘れたくないモノ程、あっさりとどこかへ落としてしまうものである
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『“想い出⋯いただきます。”』

背中から聞こえてきた声を聞いた瞬間に、目の前が真っ暗になった。





「う⋯、」

ズキズキと痛む頭に顔を歪めながらも、ゆっくりと体を起こす。純和風の部屋に敷かれていた布団に寝かされており、周りを見回しても洋風の品物は一切見当たらなかった。

更に掛け布団を捲れば、自分は浴衣を着ていて、サラリと背中に黒髪が流れる。状況が全く飲み込めない。

「彩菜様。失礼いたします。」

「え、」

すぅ、と、引かれた障子の先には、一人の男性。その男性の手には白い布がかけられた桶があった。

この男も着物を着用しており、が、それよりも目が離せなかったのはプカプカと浮いている生首。

正確に言えば、首は無く、頭だけが浮いていたのだが。

「彩菜様!!お目覚めになられていたのですね!良かった、三日間も目覚めずに、皆、心配いたしました。」

ずいっと、近くに寄られるが、それが逆に普通の人間ではありえない現象を、余計に認識させられているようで。

「もうすぐ三代目はお戻りになられるはずですから!少しお持ちくださいね。」

「お、ば、け⋯!」

「??彩菜様?」

「きゃあああああああああ!!!!!!!」

ーーー屋敷に響き渡る程の、悲鳴が上がる。

なんだなんだと、部屋の周囲に集まってくるのは人間の姿をしていない異型のモノばかり。

一瞬機械かと疑うようなサイズまでいたが、あのような、繊細な動きをしたり、話をするはずがない。

ぷるぷると小さく震えながら、できる限り部屋の隅へと身を寄せる。が、それで隠れられるわけもなく。むしろ増えていく数に意識が飛びそうになる。

「彩菜!?いかがされましたか!?やはり、どこか⋯!」

「来ないでぇぇぇ!!」

「ちょっと!!どうしたの!!」

「りっリクオ様⋯!」

あまりの騒がしさになにかあったのかと駆けつける、一人の男。帰ってきたと同時に悲鳴が聞こえたのだ。慌てないわけがない。

部屋の中を覗けば、相変わらずプルプルと小動物のように震えている彼女がいて。

「彩菜!よかった、もう体は大丈夫?」

妖怪を押しのけ、彼女に駆け寄り小さな体を抱きしめる。だが、抱きしめても震えが止まらない彩菜を不思議に思い、少し離れてゆっくりと目を合わせた。

しかしその彼女の目には、怯えと恐怖しか無い事に気付く。

「貴方は、誰ですか⋯!ここはどこですか⋯!」

空気が凍った。


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