魑魅魍魎の主
□掃除の素早さは重要
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「ねぇ、彩菜。あれ、誰。」
「んー?誰って⋯あぁ。⋯二週間くらい前から私の行く所々に現れるんだよね。前にスリから助けた事が駄目だったみたいで。」
「は?なにそれ。僕なにも聞いてないんだけど。」
「聞いてないもなにも、このところ、リクオ忙しくて私と話す暇、無かったでしょ。」
「そうだけど⋯!あれはどう考えてもストーカーだよね!?」
リクオが気にしているのは彩菜の背後にある電柱から、こちらを伺っている男だ。
あれでいて、本人は隠れているつもりなのだろう。諸々丸見えなのだが。隠れきれていないのだが。
「そもそもスリってさ!また危ない事したんじゃないの!?」
「失礼な!危なくなんかなかったよ!」
彩菜が言う二週間前の出来事とは、混み合う通学路で偶然、あの男の荷物の中から財布を抜き取る別の男が目に入った。
見てしまった以上、黙っているわけにもいかず、スリの手を捻り上げ、地面へと押し付け確保。
その後お礼と称して被害者であるあの男性から、しつこく連絡先を聞かれつつもスルーし、二度と会う事は無いと思っていたのだが。事件から一週間後、今から一週間前から視界の隅に入るようになったのだ。
あのスリを取り押さえた際、制服を着ていたため、調べようと思えばいくらでも方法がある事が頭からすっぽりと抜け落ちていた。
「彩菜は本当に、人間も妖怪も魅せる力があるんだから。もう少し用心しないと駄目なんだよ。」
「うーん⋯。私なんてその辺にいる普通の人間なのにね。」
「⋯⋯⋯。」
これだから駄目なのだ。
「でもまぁ、相手が人間ならどうとでもなるよ。ここ最近お兄ちゃんに空手の護身術仕込まれてきたから。」
「だから手を捻り上げたんだ⋯。」
元々彩菜が幼い頃からやっていたのは剣道。その腕前は奴良組の面々も唸るほどで、確かにただ筋肉がある男の前で膝を付くことは無い。
逆に付かせる側である事は重々承知の上なのだがーーー。
「家の場所はバレてないの?」
「勿論!最寄駅に着いたらすぐに撒いちゃうし、家までは尾けられたことはないよ。だから心配しないで?大丈夫だから。」
「そうだとしても、彩菜は僕の、彼女なんだからさ。心配なんだよ。」
「かのっ、」
ボン!と、まさに絵に書いたように赤くなった彼女に、追い打ちをかけるため、額へ唇を落とす。
こんな道端で!誰かに見られたらどうするの!リクオの腹黒!と罵られても気にすることは無い。それよりも気になったのは、ギリギリと悔しそうに唇を噛む、彩菜が助けたと言うあの男。
ーーーこのままでは、済まないような、そんな予感がした。
ここ最近、リクオが忙しく走り回っていたのは一週間程前から浮世絵町で起こっている連続殺人の件だった。
被害者の共通点は女性であり、長い黒髪である事。被害に遭った者は全員髪を短く切り取られていてその殺め方がまず人間ではありえないものだったのだ。
三件目の事件が起こった時点で奴良組は犯人を見つけるべく動き回っていたものの、全く見つかる気配がなく、現場に残している証拠もほとんど無いと言っていい程、過言ではない。
被害者女性に目星を付けると言いつつも、浮世絵町の中だけでも黒髪の女性は五万といる。
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