銀色の魂

□ドラマチックなタイミングに遭遇できる人間は、そう多くはない
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今年も夏がやってきた。夏とは若者が浮つく季節でもあり、犯罪率も急激に上昇する。

それは警察である自分にとっては取り締まらなくてはいけない対象だ。

だがそれよりも、今は彩菜を戸惑わせる事柄があった。

「ねぇ、お妙ちゃん。」

「どうしました?」

「私これから、夏祭りの警護なんだけど⋯。」

「近藤さんと沖田さんから聞いています。その準備のために、こうしているんじゃないですか。」

「へ?でも、私はもう会場に行かないと。」

「いいから動くな。」

「⋯はい。」

年下とは思えぬ表情と気迫に、彩菜はつい顔を引き攣らせる。これは、今、彼女に従わなければ後々困る事になりそうだ。

先程彩菜が妙へ伝えた通り、今夜は夏祭りの警護がある。なにやら将軍様が花火をご覧になるという事らしく、屯所の警備に必要最低限の人数を残し、後は出払う程の規模だ。

今回は私服組と制服組に分かれて仕事をするという話もあり、内、彩菜本人も浴衣で出動するつもりだった。

だが、その支度は全て自分でするはずで。自室には数年前に買った浴衣が掛けてある。のだが。

着替えようとした瞬間に彼女に攫われ、美容室へと押し込まれた。その後流されるまま椅子に座らされ、メイクを施した後、髪のセットをされている。

「はい、頭は終わりましたよ。」

「わ、凄い⋯。」

鏡を見せられた彩菜は目を剥く。髪の毛が自分では絶対にセットができないような形になっていて、さすがプロだと思いつつ、カーテンで仕切られた更衣室へ連れ込まれた。

あれよあれよと着ていた制服を脱がされ、美容師の人が見せてきた浴衣に首を傾げた。

自分の持っている浴衣だと思っていたのだが、それは心当たりのない物だったのだ。

「え、それは、私のじゃ、」

「はいはい、大丈夫ですよー。お知り合いの方がお持ちになった浴衣ですから。はい、着付けもするので動かないで下さいね。」

「ちょ、」

反抗する間もなく、手際よく着付けられ、外にあった草履に履き変えると全ての支度が終わった。まさに怒涛の勢いである。

浴衣に合わせたのか、口が絞る形の白い巾着を渡され、中に貴重品が入っていることを伝えられる。ここまでくると手際が良すぎて怖い。

そのまま二人で並んで歩き会場に着くと、お妙とは別れ、あらかじめ伝えられていた場所へと顔を出す。

もうすぐ始まるせいか、会場内に設置された拠点の中は慌ただしかった。

「あ!彩菜!」

「近藤さん!」

本部内から気付いた近藤に手を振られる。彼は隊服組であるため、この暑い中上下しっかりと着込んでいた。側には同じく隊服を着た土方もいる。


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