銀色の魂
□急がば回れ、とは言うもののあまりのんびりするのはいかがなものか
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私が惚れた男、土方十四郎は、いつも頭の中に別なものが入っているような馬鹿だった。それは自分もそうであるため、否定をする訳では無いのだが、傍から見ていれば、目の前の事を乗り切ることで精一杯なのだろう。
簡単に言えば、仕事のことしか頭にない。もっと簡単に言えば、お前なんざ相手をしている暇はない、と、近しいことを言われた。
それはもう、盛大にはっきりと初恋の次にした恋も見事に惨敗し、自分も仕事と仲間と大切な物のために働こうと決心する。
ちなみに、もう自分は恋愛をするのはやめた方がいいと思う。望みのない恋をしてきたせいで、そういう方面で傷付くことに、臆病になってしまった。
そんなある日の事。
「は!?お見合い!?私が!?」
「しー!しー!誰かに聞かれると不味いから!!」
「むご!?」
局長室に呼び出され、なにもやらかしてはいないよな?と思いつつ入室した三分前。予想外の言葉に目をひんむき、声を抑えるため近藤の大きな手で口を塞がれた。
落ち着いて!!と言われているが、近藤こそ、落ち着くべきだと思う。
「私⋯お見合いができるような人間じゃないよ。」
「いやね?とっつあんからこればかりは断りきれないって言われちまってな。別に結婚しろとは言ってない!!むしろ会うだけ!会うだけ!!」
「でもあまり期待をさせるわけには、」
と、そこで思い止まる。写真を見てみれば、今まで繋がりがあるような面々とは全く異なるタイプであり、幕臣の息子であるらしい。
この失恋をした機会に、視野を広げることもアリかな、と思った彩菜は、近藤から写真を受け取る。
「会うだけなら、いいかな。ただし私も忙しいから、予定を組むのは早めにしてね。」
「!!!いいの!?」
「うん。それに上手く行けば、資金補助を聞き入れてくれるかもしれない。」
そうすればうちの苦しい資金繰りももっと楽になるだろう。月締めで勘定方が泣くことも少なくなるはずだ。
「彩菜っ⋯!ありがとう!」
「それに、恋愛をすっ飛ばして結婚もありかも。」
「うんうん!!⋯ん!?」
「とにかく近藤さん、この件は内密にお願いします。知られると面倒な人がいるから。」
「あぁ⋯万事屋な⋯。」
写真に映る男性の目をぼんやりと眺める。どことなく昔馴染みの銀時に似ているような気もするが、もはや外見はどうでもいい。
昔馴染みの一人であるあの男も、いまだによく自分を気にかけてくれている。銀時にも、今はもうちゃんとした家族と仲間がいるのだ。そろそろ自分は卒業をしてもいい気がする。
ーーーいや、むしろ、卒業ができていないのはーーー。
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