銀色の魂

□人間は一度考えられるキャパをオーバーしてしまうと、考える事を諦めてその場で順応しようとするもの
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「⋯⋯えっと⋯、ここは…、どこ…でしょう⋯。」

周囲は木、木、木しか見当たらず、どうやら森であることらしいのは確かなのだが。 見回り中に桂の爆弾をもろに食らってからの記憶が全くといっていい程、無かった。

「無線と携帯⋯!!」

まずは連絡を取ることが先決だろうと、ポケットに入れていた無線機や携帯電話を出してみたが、あの爆発のせいだろう、壊れていた。

「文明の機器⋯!駄目だ⋯!脆すぎます⋯!」

があん!と地面に強く叩きつけてみるが全く効果がない。これ以上、この二つに当たっていても状況は変わらないと判断した彩菜は諦め、まずは森からの脱出を考える。

こういう時、手っ取り早いのは一番高い場所に登って周囲を見回す方法がいい。高い木に目星をつけ、よじ登り遠くまで眺めようとしたが、それをする前に呼吸が止まった。

「ターミナルも、船も⋯いや、そもそも江戸の町がない⋯?」

まさに血の気が引くとはこういったことだろう。

眼下に広がるのは、なに一つ人工的な物が浮かんでいない青い空と、田んぼや小さな家、のどかな風景。 子供が裸足で駆け回っているところも見える。

畑や田んぼでは手作業で農作業をしている面々の姿もあった。

「いやいやいや?私江戸にいましたよね。見廻りで歌舞伎町にましたし⋯。え、これは、私記憶喪失!?」

気を失っている間にこの場所へ運ばれてしまったのだろうか。だが、冷静に考えれば、そんなことができるのは片手で十分足りるほどの人数だと思っていたのだが。

「真神彩菜、戸籍上は二十代⋯、性別は女、身長一五六cm、体重ピーkg、今の職業は真選組零番隊隊長⋯忘れてませんよね⋯。」

自分に関する事やその他の事柄も忘れていない。なら変わったのはこの周辺なのだろうと、木から飛び降りる。

そして、まず誰かと話をするべし、と、人里に向けて全力で走ること三十分弱、ようやく森から抜けることができた。

「本当に⋯田舎⋯。」

風に揺れる稲穂の姿を見るのは何年振りだろう。目を細めながらゆっくりと畦道を歩いていれば、久し振りに味わう美味しい空気。

どこか懐かしいそれに、彩菜の足取りがゆっくりとなる。

このままずっとここにいるのは、仕事もなく、悪くないかも、と思い始めた時、正面から浪人の集団が見えた。

その腰には真剣ではなく木刀があったが⋯、とりあえず話が聞ければいいいや、と、その集団に近付く。

「すいませぇん!ここってどこですか?」

「はあ?嬢ちゃん誰だい、変わった風体で。」

「え?」

真選組の隊服を知らない人間なんているんだ、と思いつつ、職場の制服と誤魔化し再び質問の答えを促す。

警察が迷子など、恥ずかしいばかりだ。

「どこって、ここは武州だよ。」


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