夢を追う人

□携帯電話は携帯されていなければ意味が無い
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さて家に帰ろうと、荷物を纏めカバンをかけたその時、携帯の光が着信があったことを知らせていた。誰からだろうと思いつつ、画面を確認してみれば今までにない着信の量。

「え、十五件⋯!?」

それも電話を掛けていた相手は、恋人の実の兄である八尋だった。これは明らかに、彩菜の身になにかがあったのだろう。

慌ててかけ直すも今度は八尋の携帯に繋がる気配はなく。一番古い留守番電話を聞けば、彩菜が事故に遭って病院へ運ばれたとの吹き込みがあった。

それを聞いた瞬間頭が真っ白になり、顔色が悪い寿也に気付いた他の面々が、事情を悟り、呼んでくれたタクシーへ押し込まれた。

行き先を伝え、なるべく早く着くように頼み、携帯を握り締める手が小刻みに震える。

ーーーもしも、取り返しのつかないことになっていたら、後悔してもしきれないだろう。八尋からの電話はお昼前から入っており、なぜ昼食時に確認しなかったのかと自分を責めた。

病院に着けば、タクシー代はいつの間にか先輩方が払っていてくださったらしい。運転手にお礼を言いまずは受付へダッシュする。

彩菜がいる部屋番号を聞き出し、エレベーターをさえ待てなかったため、階段を数段飛ばして登っていく。

彩菜の名前がある部屋番号の前に着く頃には息はすでに上がりきっていた。三秒息を整えてから乱暴にドアをノックし、勢いよくドアを引く。

するとーーー。

「え!?寿くん!?」

「あや、彩菜⋯!」

「あ。」

三人それぞれ、バラバラの反応をする。

事故にあっているはずの彩菜は、ポカンと間の抜けた表情をし、彩菜の兄は明らかに顔を引き攣らせていた。

「彩菜、怪我、は?起きてて、平気なの?」

「ちょ、寿くんすごい汗!兄さん!お水お水!」

「おっおう!」

まだ開けていない買ったばかりのそれを渡され、半分程度一気に飲み干す。自分でも気付かなかったが、余程喉が渇いていたようだ。

「あのっ、彩菜が事故に遭ったって⋯!」

「怪我の方は大したことないよ?ちょっと左腕にヒビが入っただけだから。一応今夜だけ入院するけど。」

「ほ、本当?」

「腕以外はピンピンしてるから。」

白い包帯でガッチリと固定された腕は痛々しく、よく見れば他にも細かい傷がたくさん付いている。

前髪をよければ額にもガーゼが貼られていた。

「兄さん、寿くん今日はお仕事だから連絡はしないでって言ったでしょ?」

「しゃあねぇ。こっちはろくに事情も聞かずに打ち合わせ抜け出してきたんだぞ。」

「心配かけたくなかったのに⋯。」

「そもそも事故に自分から首突っ込んでったお前が悪い。」

「え!?どういう事ですか!?」

八尋からの予想外の言葉につい出てしまったそれは、彩菜が眉間に皺を寄せる理由には充分すぎた。


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