夢を追う人

□不意打ちは知らぬ間に自分の首を絞めている場合がある
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もう駄目なのかな、ここ最近はずっとそう考えている。

今付き合っている人と出会ったのは、十年前の中学二年生の夏。別クラスであったものの同じ委員会で初めて会話したことがきっかけ。

三年の春、奇跡的に同じクラスになりよく話すようになって、初めて会った同じ夏に告白され、お付き合いをするようになった。

彼は野球が大好きで、野球一筋で、どうして自分に告白したのか、いまだに疑問であるものの楽しい学生生活だったと思う。

それから高校は野球の強豪校に進学し、それから 結果を出し有名になってからプロになって、会う機会がほとんど無い。

大好きで、大好きだから辛く思う。

もう数ヶ月会っていない彼を、テレビ越しに見つめるのは辛い。応援したい気持ちは勿論ある。忙しくて、休みの日はちゃんとゆっくりしてほしいとも思っている。でも、それでも。

ドロドロとしたこの感情が嫌で、クッションに顔を埋める。

彼が入団したチームが今日、日本シリーズで優勝し、今その記者会見をしている。優勝の一手は、彼の満塁逆転ホームラン。

「すごい、とおいとこに、いっちゃた、なぁ。」

対して自分はしがない社会人三年目。喫茶店の店員で、明らかに、誰が見ても、自分と彼は似合わないだろう。

こうして有名になれは人気アナウンサーや、旬な芸能人との関わりは段々増えていると思う。きっとその中には、綺麗な人もたくさんいて。

にこやかに記者の質問に答える彼に、余計距離を感じてしまう。

『今日のホームランは凄かったですねぇ!』

『いえ、チームで繋いだものですから、僕一人じゃとても。』

『見事入団してから日本シリーズ優勝となりましたが、なにかやりたいことはありますか?』

『そうですね。これからも、応援してくださるファンの皆さんに応えられるようにプレイしていきますので、どうぞよろしくお願いします。』

彩菜は小さく溜息を吐いてから、抱き締めていたクッションを座っていたソファーに置く。立ち上がると冷蔵庫の中から牛乳を出しコップに注いだ。

もうこの年で身長が伸びることはないが、それでも期待して常に牛乳は冷蔵庫の中に入っている。

『あと一点、突然のご報告となり、申し訳ないのですが、この場を借りて失礼します。』

『なんでしょうか?』

『結婚します。』

「んぐ!?ゲホゲホ⋯!!」

飲んでいた牛乳をうっかりと吹き出しそうになったが、堪えた自分はとても偉いと思う。テレビから離していた視線をグリンと元に戻し笑顔を浮かべている彼の顔を見つめる。

「な、に、それ。」

結婚?そんな話、全く聞いてない。

結婚どころかプロポーズさえもされていないのだ。十中八九結婚相手は自分ではない。


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