灰色の祓魔師

□目に見えるモノが全て、ではない
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一度さらっとこの世界の事を説明をしてもらったが、難しすぎて半分以上聞き流していたため、詳細は分からない。ただ、神田の目に、深い闇が映ることがあるのだ。

それは己が触れてはいけない事だとわかっている。だからこそ気が紛れるようにと、茶々を入れに行く。

そうすれば機嫌は悪いままだが、闇とは別のモノが映る。完全なる自己満足ではあるが、それに彩菜は心底安心するのだ。

ちなみに、当然旅は神田一人ではなく、大人のティエドールとマリという男二人がいる。

「お前は、ずっとこのままなのか?」

「へ?」

「俺達は、一度本拠地に行ってエクソシストになる正式な手続きをする。だから、お前も、どうするか決めろ。」

「どうって、私はもう死んでいますし⋯、もし神田君についてくるなって言われてしまったら、そうするしかないと思っていますが⋯。」

「⋯そういう事じゃねぇだろ。」

「??」

「もういい。」

その言葉から、神田が彩菜の言葉に反応することはなくなった。目も合わせず、全てを無視されている。彼が腹を立てるようなことを言っても全て。

どうやら怒っているらしいとはわかるのだが、なにに対して怒っているのかわからない。彼の場合、わからないまま謝ったとしても、逆に怒りが増すだけだ。

そうなれば彩菜は八方塞がりで、誰かに相談しようにも、姿が他の誰にも見えないためそれはできない。
結局無視をされ続けて数日。

その数日間の中で様々な事を考えていた。初めて出会った時から、彼はあまり好意的ではなかった。それでもちゃんと向き合えば話を聞いてくれるし、話してくれる。

ただそれは、自分が勘違いをしていただけだ。そもそも自分は死んでいて、彼は生きている人間。その彼の道を存在するはずのない自分が邪魔をしてはいけないのだ。

長らく側にいたせいか、初めて意思疎通ができた相手だったせいか、はたまたそのどちらもか。

ーーー彼から、離れたくない。それでも、決めたのだ。彼から離れることを。

このまま彼の側にいても、近い将来足枷となってしまうことは目に見えている。

黙ったまま消えるか、ちゃんと伝えてから消えるか、話しかけるタイミングがないまま、悩みつつ、ただ浮いているだけになってしまった。今であれば、こっそりと離れてしまえばいなくなったことに気付く事はないだろう。

もしもこちらから話しかけたとしても、彼はもう聞いてくれない気がする。いまだ原因はわからないが、あの日怒らせてしまったのだから。

「⋯私より小さいのに。」

ガン!!!と、彼の愛刀が彩菜の頬すれすれを通り、背中にあった大木へと突き刺さる。

どうやら聞こえてしまっていたらしい。ひくり、と彩菜は顔を引き攣らせた。

「神田?どうした?」

「なんでもねぇ。騒がしい口を利いていただけだ。」

「なにも聞こえないが⋯。」

「気配も、無いよね?」

それは当たり前である。自分は幽霊なのだから。

「⋯気のせいだ。早く、行くぞ。」

首を傾げているティエドールと、マリを置き去りにしたまま、愛刀の六幻を回収し、スタスタと歩き出す。今日も機嫌の悪さは継続中のようだ。


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